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第8話-2

「そんな大げさなことはしてないよ」  ただ癒しを失いたくないだけだ。せっかくこんなにも自分の理想を具現化した人間と知り合えてしかも雇用できる機会があったのだ、逃すのはもったいない。  自分の欲望に忠実になっただけ、なのだが、平静になった隆則は心の中で悶絶し続けている。あんな大胆なことを言えた自分も信じられないが、こんな何をしているかもわからない人間の願いを引き受ける遥人にも驚いていた。 (そりゃ水谷君からしたら切羽詰まってたんだからしょうがないよな)  急に住居を失って途方に暮れているところで餌を目の前にぶら下げられたら、若い彼からしたら縋りたくなるのは当然だが、自己紹介をした外は隆則のことを知らないだろうに良く引き受けてくれたものだと感心する。 「そうだ水谷くん、これ食べ終わったらしばらく仕事で部屋から出ないと思うから、その間は好きにしていていいから」 「仕事、ですか?」 「うん。急に重い奴がきたから……多分一週間は部屋から出て来られないと思う。だから俺のことは気にしないでくれていいから」 「……食事はどうしますか?」 「うーん……テーブルに置いてくれれば時間のある時に食べる……でいいかな?」  どうしても仕事が始まってしまえば隆則の生活はこの上なく不規則になる。いつ寝ているかもわからない状況に彼を突き合わせるのは申し訳ない。 「五十嵐さんのお仕事ってパソコンでする仕事……なんですよね」 「そう、プログラミング。なんか、プログラマーが逃げたとかで、前の会社の後輩から泣きつかれたんだ」  隆則を失ってから会社は予想通り大変なことになっている。新たなプログラマーを育てる余裕がなくやっと捕まえたフリーのプログラマーには、スケジュールのタイトさですぐに蹴られてしまうらしい。  後輩のSEが言葉を濁すがどうやらまたあの営業が獲ってきた仕事らしい。無茶なスケジュールを笑顔で引き受けては社内を騒然とさせ続け、SEを同伴させずに依頼を引き受けてはスケジュールや工数管理もせずに丸投げしているようだ。  後輩も申し訳なさそうな声でかけてきたから仕方なく引き受けたが、隆則ですらそのスケジュールを見て青褪めるほどだ。  これでは他の引き受け手もないだろう。  一夜漬けで作ったのがまるわかりの空白部分満載の仕様書を送ってくるくらいに切羽詰まっているようだ。 (サーシングが親切って思ってしまうくらいにあの会社酷いな)  よく十年以上も務めていたなと自分に感心しつつ、尻ぬぐいのつもりで引き受けてしまった。

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