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第8話-4

 だからあと半分頑張れと自分に言い聞かせながらキーボードを叩き始める。音楽など流さない部屋の中はキーを叩く音で充満する。リズミカルなタイプ音がずっと絶えず流れ続けていく。いつその音が止むのか隆則自身もわからない。ただひたすら頭の中にあるコードを打ち出すだけで精一杯で、後先の事なんて考えられなかった。  どれくらい打ち続けていたのかわからないが、肩の重みを感じて手を止めた。グーっと伸びれば定番の全身パキパキ音がキー音の代わりに響き渡る。  随分と長い時間打ち続けたような気がする。一体どれだけの時間同じ態勢でただひたすらタイピングしていたのかわからない。 「ちょっと……やりすぎた」  トイレにもいかずただひたすら椅子に座り続けていたのは間違いない。そのせいで身体中がコンクリートで固められたかのようにどこもかしこも動かしづらくなっている。だが徹夜慣れしている身体はまだまだ正常に動ける状態だ。 「トイレと……水分……」  独り言を漏らしながら部屋を出ると、そこは眩しいくらいに光が差し込んでいる。チラリと時計を見ればもう正午に差そうと長針が必死で揺れている。果たしてその前に部屋を出たのはいつだったのかも覚えていないが、夜だったのは間違いない。  フラフラしながら食卓のテーブルに近づけば、そこには久しぶりに目にする箱がいくつも置かれてあった。 「ぽっきーだ……」  目をやれば自分が汚い字で書き込んだメモがどこにもなく、新たなレポート用紙が置かれており、そこには何かが書かれている。目を細め見れば、遥人の字が乗っている。 『ポッキーとトッポです、食べてください。あと、消化に良いおじやが鍋の中にありますので少しは食べてください』 「おじや……ってなんだっけ?」  プログラミング言語以外が全く頭に浮かばなくなってしまった脳が理解を拒否して、日常生活で当たり前のような知識すら引き出すために動くことを拒否していた。  中身を見ればわかるかとフラフラと引き寄せられるように鍋に近づき蓋を開ければ、細かく刻んだ野菜と卵が筋のように広がった粥のようなものが入っている。  だが粥よりもずっと香ばしい。 (あ、これやばい奴だ)  こんなものを食べてしまったら絶対に寝る。今の精神状況なら間違いなく満たされて眠ってしまう。 「見なかったことにしよう」  感情というものを捨て去った隆則は申し訳ないと思うこともないまま蓋を戻し、とりあえずトイレを済ませ飲み物とポッキーの箱を手にまた部屋に籠った。

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