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第8話-6
ハリウッド映画のゾンビのようにフラフラしながらそこへと行こうとする隆則を遥人が慌てて支える。
「分かりました、連れていきますから俺に掴まってくださいっ!」
大柄の遥人に引きずられるようにしてようやく風呂場まで辿り着くと、着衣のまま頭からシャワーを浴びた。
「五十嵐さん、服! 着たままですよ!!」
「うん……あーきもちいい……」
もう立っていることができず洗い場にしゃがみ込みながら熱い湯が当たる感触を楽しんだ。
「濡れたら脱ぐの大変になりますよ…………あーもう! 失礼します!」
なぜか遥人が苛立ったような声を上げ、靴下を脱ぎ腕まくりをすると風呂場に入ってきた。そして心地よいシャワーを止めまずはと隆則が着ていたトレーナーを剥ぎ取った。さすが六人兄弟の長男だ、その手際に無駄は一切ない。隆則も抵抗する気力なんてもうなかった。遥人は下も脱がし、それからもう一度シャワーを隆則に架けた。そしてそのままバスタブに腰かけながら隆則の身体を自分のすねに寄りかからせてから、髪に手を入れ全体にお湯をいきわたらせた。
「髪、洗いますよ。いいですか?」
好きにしてくれと頷くのが精いっぱいだ。だって湯があまりにも心地よくて、腹が満たされた時のように全身が心地よくなっている。
ボトルから出されたスカルプシャンプーのハーブの香りが浴室いっぱいに広がり、それがまた隆則を心地よくさせる。
大きな手が頭皮をマッサージするようにしながらシャンプーを泡立てていき、皮脂でコーティングされた頭部を綺麗にしていく。乱暴ではなく本当に優しい指使いで彼は美容師だったっけとぼんやりと思う。首を後ろに倒され、顔にかからないようにシャワーヘッドを押し当てながら、泡が流されていく。
心地いい。
床屋の洗髪よりもずっと気持ちよくてこのまま眠ってしまいそうだ。同じようにトリートメントを付けられまた流されていく。
遥人の慣れた手つきで優しく髪を撫でられていくと、とても大事なもののように思えてしまう。今まで抜け毛を気にするくらいしかしてこなかった髪なのに。
「五十嵐さん、寝るのはもう少し我慢してくださいね。今身体洗いますから」
備え付けのボディタオルに液体ソープを垂らして泡立てた後、それが優しく肌を滑っていく。垢が溜っているはずの身体が少しずつ少しずつ清潔になっていくのを感じながら、そういえば物心つく頃にはこうして誰かに何かをしてもらうことなんてなかったなとぼんやりと考える。
何かをしてもらうことよりも、何かをすることの方が多い。それが良しとされていて、気が付いたら自分でも自分のことを粗末に扱うようになってしまっていた。こんなに優しくされたら、自分がすごく愛されている人間のように勘違いしてしまう。本当は誰にも愛されていないのに。恋人だってできた例はないし、家族だってどこかよそよそしい。
(いや、家族がよそよそしいのは俺が悪いんだ……)
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