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第8話-9
燦燦と降りしきる太陽の光が存分に注いだこの部屋を見たのは何年ぶりだろうか。
いつも遮光カーテンを引いたままで暗いのが当たり前だったから珍しいのだろうか……。いや、でもそれだけじゃない。カーテンが開けられていることも驚きだが、それよりもなによりも、徹夜明けなのに部屋が綺麗だ。
パソコンの周囲に乱雑に置かれていたコップもなければポッキーの空き箱もない。遥人が来てからマメに掃除してもらっているおかげで以前のようなカオスな状況からは脱しているが、それだって徹夜続きでとても掃除などできるはずがないのに、自分がいる部屋は誰がどう見ても美しい状況だ。
ずっと寝ているだけだった隆則がするはずがない。となれば一人しかいない。
「申し訳ないことをしたな」
確かに彼の仕事は家事一切だが、あんなにも汚れきった部屋を掃除させるのは心が痛んだ。淀んでいたはずの部屋の空気もいつの間にかすっきりしていて、いつの間にか換気までしてくれていたことを教えてくれる。
きっと隆則が起きないように気を使いながらだっただろう。
大学の勉強も大変らしいのに、本当に申し訳ない。
だが助かっているのも確かだ。
「……ところで俺、なんかすげーさっぱりしてる」
部屋だけではない、身体までもがとてもさっぱりしている……ような気がする。いつもの徹夜明けとは全く違った感触だ。いつもならべたつく身体が気持ち悪くて、なんか全身に湿疹でもできているんじゃないかという痒さに襲われるのに、今回はそれがない。
「なんでだ?」
必死に記憶をたどっていき、仕事のデータを送信したかどうかから記憶があいまいになっていることに気付いた。
「……締切っ!」
慌ててパソコンに向かい、メールを確認する。いくつか来ているメールの中に後輩の名前を見つけ慌てて開ければ、謝意がつづられていた。
「ちゃんと納品したんだ……」
ほっとしてついでにと他のメールをチェックしながら、その後の記憶を必死で手繰り寄せていく。
(そうだ、仕事終わって風呂に入ろうとしたんだ)
会社員時代と違って在宅だからすぐそこに風呂があると、眠い身体を叱りつけて風呂に入ろうとした。けど、自力では辿り着けなかった。そうだ、足がもつれて転びそうになったのを遥人に抱えてもらったのだ。
そして……。
その後の展開を思い出して隆則は赤面した。
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