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第9話-2
家事全般が苦手な隆則は信じられずにいる。食事だって毎回美味しいのに栄養を考えたバランスのいい物がテーブルに並び、服だって洗いざらしのままではなくきっちりアイロンまでかかっているのだ。部屋のどこも清潔でゴミだって毎週決まった日に出しているのでベランダにゴミ袋が放置されることもない。ちゃんと人間らしい生活が送られている部屋に様変わりしているのには相当な労力がいるはずだ。
なのに訝しむ隆則の表情を見て遥人はなんてことないように笑った。
「一人暮らしの時よりも楽をさせてもらってます」
「本当に? 大変になったら俺のことは気にしなくていいから」
「ありがとうございます。それよりも、五十嵐さんのほうは帰省はいいんですか?」
「あー……」
もう何年も実家には帰ってない。数年前までは母の執拗な催促に折れて帰っていたが、そのたびに結婚はとか彼女はとか辛い話ばかりを繰り返され、今では仕事を理由に帰らなくなっている。そして今年もきっと……いや絶対に帰れない。もう30も過ぎて独身のまま仕事ばかりしている息子に見合いをセッティングしているに決まっている。
「次の仕事があるから無理……かな」
「えっ、仕事終わったんじゃないんですか? それじゃ身体を壊しますよ」
幸いなことに、隆則への依頼は途切れることはない。余裕をもって組もうとしても次から次へと依頼がやってくる。後輩からは定期的に泣き言が入るし、サーシング株式会社からも正確な仕事ぶりを気に入られたのか、開発の外部サポートを懇願されている。
「うん……でもフリーだから断れないんだ」
それっぽい理由を口にして俯いた。一度断ったら次の仕事はない。そんな雰囲気を醸し出せば敏い遥人は納得したのか「じゃあ丁度いいですね」と明るく言った。
「俺がいないと五十嵐さんまともなもの食べないから。お互い年末年始はいつも通りってことで」
「すまない……」
「いや、年末年始に一緒にいるのが男の俺で申し訳ないです」
「そんなことないからっ!」
むしろ嬉しいなどと口が裂けても言えない。もともと遥人への好感度が高かったし、同性に恋をする性癖だからむしろ役得とは口が裂けても言えないが、新しい年を気になる人と迎えられるんだと思っただけで気持ちが高揚していく。
あまり仕事を詰めすぎないようにすると約束しながら、これ以上一緒にいたら感情が爆発しそうで、仕事を理由にまた部屋に籠った。
(やっぱりカッコいいな、水谷君……ダメだダメだ変な気を起こすなっ!)
見ているだけで満足するしかない。相手はノンケで自分がゲイだとばれてしまったら絶対に出ていかれてしまう。
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