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第9話-4

 隆則から見れば手の込んだ料理ばかりだ。 「俺、小さいころから親の代わりに料理ばっかしてきたから慣れてるんですよ。一人暮らしするまでずっと親の分と弟たちの分の二種類作ってきたから、これくらいお手の物です」 「……凄いな……」  感嘆するしかない。 「だから気にしないで食べてください。仕事はどうなんですか? まだ続きそうですか?」  もう今年も残るところあと十日、会社が休暇に入るまでそれほどなく、その状態で隆則に縋りつく企業はあまりない。むしろ渡したデータを組み込む作業に躍起になっていてこちらに連絡すらない。年始から始動する依頼はあっても、ポケットのように空いてしまった時間に途方に暮れていた。  嘘が苦手な隆則は素直にその状況を口にした。 「なら大掃除をしましょう! 五十嵐さんの部屋を掃除しようと思っていたんですよ」 「え? いや自分の部屋は自分でするから」 「でも布団を洗ったりしないと。新年には気持ちいい布団で寝たいでしょ。近くにコインランドリーができたんですよ、それ試したくて」  確かにまともに干されたことのない隆則の布団は消臭スプレーでは匂いが誤魔化せなくなっている。しかも黄ばみ始めており、いつもならポイっと捨てて新しいカバーをネットで注文している。だがそれは遥人には言えない。自分の生活能力のなさは知られていても寝具までしかりとは言いたくない。  でも触られたくない。  その上では己の欲望を満たすためにあんなことやこんなことをしているから、気になる相手には絶対に触れられたくないのだ。  正直、あの時は勢いで仕事の依頼をしてしまったことを隆則なりに後悔していた。ただ遥人の助けになればと口にしたが、いざ一緒に住むようになって優しくされて、段々と自分の性癖が知られるのが怖くなった。そして「そんな目」で遥人のことを見てると知られるのも。  どうしたらいいのだろうか。考えても答えは出ない。  今更遥人を放り出すこともできないし、彼がいることで助かっている部分のほうが大きい。とてもじゃないが毎日コンビニ弁当という生活には戻れなかった。なんせ遥人の作るご飯は優しい味で胃袋だけでなく隆則の心まで満たしてくれる。そして常に清潔な住環境がこれほどまでに心を豊かにしてくれるのだとも知らなかった。片付けが極端にできない隆則は、足元を気にしなくても歩ける自宅というのを久しぶりに体験し感動し続けている。全自動掃除機があっても床に散乱している物は片づけてくれない。  なによりも仕事に熱中して食事を取らなくなったとわかるとさりげなくテーブルに菓子が置かれてあるのが嬉しい。  けれど、どんなに仕事に集中し続けても、遥人の存在がそこにあると思うと諦めていたはずの恋心がざわめき始める。自然と彼へと向かってしまう気持ちや感情を必死で押し殺しながら、忘れろ諦めろと心に何度も言葉の鞭を撃ち続けても消えようとはしない。むしろ優しくされるたび気遣われるたび笑顔を見せられるたびに大きくなっていく。

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