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第9話-5
「あーでも……」
「いい機会だから洗っちゃいましょう」
笑顔でガンガンに詰め寄られてしまえば強く出られない隆則は頷くしかなかった。同時に周囲を見回した。
(あ……なるほど)
日差しを取り込むためのベランダの窓は磨き抜かれ雨のあと一つないし、網戸も黒く汚れていない。きっとすでに大掃除は終わっていて残すは仕事で籠りきりになっている隆則の部屋だけなのだ。
仕事がひと段落するのを几帳面な彼はずっと待っていたのだろう。
家事ができない隆則に言えるのはただ一言。
「よろしくお願いします」
「任せてください。では早速部屋に入らせてもらってもいいですか?」
きちんと確認を取るあたりが遥人らしいなと思いながら頷く。
遥人はあの太陽のようにまぶしい笑顔を浮かべると掃除道具を手に隆則の部屋へと入っていった。
喫煙癖はないがしっかりと年齢に見合った体臭が充満している部屋のカーテンを開くと窓を全開にして空気の入れ替えを始めた。
そして布団とシーツを剥ぐと何年もそのままにしているマットレスを持ち上げた。
「えっ、なにしてるんだ?」
「ベランダで天日干しします。そのほうが匂いなくなりますから」
「はぁ……」
マットレスというのは壊れるまでそのままベッドの上に置かれるものではないのかと驚きながらも、遥人の指示に従って触られては困るものを収納ケースの中へと片付けていく。
ベランダにマットレスを立てかけると遥人は布団を洗ってくるとそれらを大きな専用カバーに入れ出かけて行った。
「いってらっしゃい……」
見送るために赴いた玄関も、久しぶりにじっくり見れば隅の隅まで埃一つない。それどころか、つやつやとコーティングされたかのように輝いている。
もしやとシューズボックスを開けばそこも綺麗になっており、放置している革靴が磨かれているどころか、履き続けているスニーカーまで新品の頃のように白くなっている。
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