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第9話-6
「プロの家政婦並み?」
一介の大学生のはずなのにこんなことまでできるのかと感心するしかなかった。
遥人はきっと嫌なのだろう、住んでいる家に汚れた個所があるのが。特に全自動掃除機すら締め出されている隆則の部屋は魔窟と呼んでも差し障りないありさまだ。
「……綺麗にしよう」
印刷した仕様書の束が散乱している床を歩きながらどこから手を付けていいのかわからず、とりあえずとばかりにキーボードの隙間掃除をし始めた。帰ってきた遥人に笑われたのは言うまでもない。
その日の夜遅く、ようやく綺麗になった部屋を見て隆則は呆然とした。
そうとしか言いようがない。
引っ越して以来見たことのないような美しさだ。
プリンターにかぶっていて当たり前の埃もなく、ぐちゃぐちゃだったクローゼットの中も一目見ればどこに何があるのかわかるようになっている。しかも床に散乱した書類は綺麗に会社やプロジェクトごとに束ねられパソコンの積み上がっている。さすがに守秘義務を含むものが多いためそのまま紙ごみとして捨てられないので仮置き場だと遥人は言った。
そしてなによりも、あんなに体臭を放出していた寝具一式が購入時よりも馨しくなって定位置に鎮座している。どんな魔法を使ったのか以前よりもずっと白さが目立つのは気のせいだろうか。
「明日にはシュレッダー買ってきますので、それで紙類は処分しましょう」
「それなら今からネットで注文したら明日届くから」
「では届いてからにしましょう。……あと、できればなんですが、お仕事が終わった後でいいので掃除に入らせてもらってもいいですか? 仕事中は絶対に邪魔しませんから」
そう言いたくなる気持ちを今日一日でよくわかった。マンションを購入してから全くと言っていいほど手入れしなかった部屋の掃除に丸一日を要してしまったのだから。これがこまめに手が入ればこれほどの苦労はしなくて済むし、遥人の負担が減るに決まっている。
「ごめん……よろしくお願いします」
頭を下げて頼む。真っ黒になった新品の雑巾やパソコンラックの上から降り続けてくる綿埃を見てしまえば受け入れる以外ない。なんせ埃はパソコンの大敵だ。中にたまった熱気を放出するためのファンの穴がまさかびっしりと埃で詰まっていて、そのまま使い続けていたら丹精込めて作り上げたパソコンから火が立ち上るところだった。
複数台あるパソコンの蓋全てを開けて丁寧に掃除する遥人に、隆則は見入ってしまった。掃除機で大まかな埃を吸い取ったあと、雑巾と綿棒だけで本当に綺麗にしていたのだ。そんなことをする時間があったら資格の試験をすればいいのに「五十嵐さんの大切な仕事道具でしょ」と笑っては大切に扱うのだ。
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