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第9話-9
意識が下肢へと向かうと、妙にしたくなるのが男というものだ。
どうしようと考え続けて自然と箸が止まる。
「嫌いなものがありました?」
遥人に声を掛けられてやっと自分が固まっていることに気づいた隆則は慌てて目の前にある里芋の煮っころがしに箸を伸ばした。
「ない、なにも……本当に水谷君が作ってくれるものはどれも美味しいから」
慌ててつるりとした照りを放つ里芋を口に放り込んで、咽る。
「そんな慌てなくていいですから。お茶飲んでください!」
目の前に差し出された湯飲みに入った程よく冷めた緑茶を流し込む。湯飲みなどという情緒のあるものが自分の家になかったはずなのにという事実に気づかないまま。
こほこほと何度も噎せ返りながら味の染みた里芋を胃袋へと送り込んでからようやく深く息をする。
「ごめんまた迷惑かけちゃって……」
「こんなの迷惑じゃないですから。今度から里芋はもっと小さくしてから煮ますね」
「いや、このままでいい! 手間かけさせて申し訳ない」
「そんなことありませんから」
優しい手が隆則の背中を優しくさすった。熱い掌の熱がトレーナー越しに伝わってきそうで拒みたいのに、もっとして欲しくなる。
(欲張りだ……)
彼の優しさを勘違いするなと何度も自分に言い聞かせたはずなのに、少しでも優しくされただけで若葉がギュギュっと伸び大きくなってしまう。
ああ、もう無理だ。
これ以上好きにならないなんてどうしたってできない。
遥人からしたら手の焼ける雇用主でしかないのに、どんどんと根だけではなく茎までもが伸びて花を咲かせようとする。
恋の花は咲かない。
分かっていても花咲くために彼からもらった優しさを養分に伸び続ける。
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