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第9話-10
駄目だと思いながらも、さりげない気づかいや思いやりは確実に隆則の心を掻き乱す。遥人にそんな気持ちが全くないとわかっていても向かずにはいられない。
「もう大丈夫だからっ!」
だから頼む、これ以上優しくされたらダメになってしまう。どんどんと好きになってしまう。
隆則はとにかくこの場から抜け出したくていつもよりも早く食事をかっ込み、年始からの仕事の準備をすると部屋に籠った。
綺麗に磨き抜かれた部屋でパソコンに向かう気持ちになれなくてベッドに倒れ込んだ。
もうそこにはおじさん特有の匂いはなく清潔な洗剤の香りだけが広がっている。それを汚すようで申し訳なさが募るが、もうどうしても収まりがつかない。頭の中が遥人のことでいっぱいになる。仕事が始まれば忘れられるだろうか。不安になりながらリモコンで明かりを小さくした部屋の中で下着の中に収まっている物を取り出した。
罪悪感をいっぱいにしながらそれを擦る。
「んっ……あ」
久しぶりに与えられた刺激に兆していた分身が震えた。いけないとわかっていても頭の中は遥人の顔が巡る。彼はどんな風に恋人に優しくするのだろうか。あの大きな掌は背中をさすってくれた時のように恋人の肌を撫でるのだろうか。
「あっ」
想像しただけでまた分身がぴくんと跳ねた。疚しい気持ちのまま想像だけだからと言い訳をしながら自分に覆いかぶさってくる遥人を思い描く。あれほど雇用主というだけで自分に優しくできる遥人だ、きっと恋人にはもっと優しくするはずだ。キスだって乱暴になんかしない。何度も感触を味わうように唇を合わせて、それから相手の緊張が解いて唇を開いてから舌を潜り込ませることだろう。その感触はどんなだろうか。
「んんっ……ああ」
熱い吐息が清潔なシーツに染み込んでいく。同時に硬く成った分身からも先走りが零れだし伝い落ちる。
隆則は手の動きを速めた。
遥人がどんなセックスをするのかを想像しながら。けれどその相手は自分じゃない。きっと彼に見合う可憐な女の子だ。保護欲をそそるようなきゃしゃな体を持ち愛らしい容姿の……遥人が好きになるのだから性格もいいに違いない、そんな女の子を怖がらせないように高価な宝石を扱うように甘やかすようなセックスをするだろう。僅かな反応に喜び、小さな声を漏らすたびにそれでいいのだと言うようにキスをするのかもしれない。逞しい身体で包み込みながらどこまでも甘い甘い刺激だけを与えるのだろう。
ドクンと分身に血が集まった。
彼女はどんな反応をするだろうか。遥人から与えられた甘いばかりの快楽に恥ずかしがりながらも体温を上げることだろう。そしてその名を口にするはずだ、遥人、と。
きっと彼は名を呼ばれるたびに甘い口づけで応えるだろう。それでいいと。もっと呼んでくれていいと。
熱い息を吐き出しながら隆則は唇を舐めた。
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