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第9話-11

 もし自分が同じようにその名を呼んだらと試しに唇だけを動かす。  それだけで分身は張りつめ掌に透明な蜜を零す量を増やした。  クセになる。  もう一度と音を出さずに彼の名を呼んだ。 「んんっ」  手が勝手に早くなっていく。  あの長い指が柔らかい肌を辿りピンと天を向いた胸にキスをするのだろうか。胸だけではない、相手を甘やかすように身体の全てにキスを贈るかもしれない。そのたびに彼女はきっと甘い声を漏らすだろう。そして溶けきった頃を見計らい、相手を怖がらせないように二人がつながるための場所を指で擽りながら相手の反応を確かめる。怖がらせないように。少しでも怯えを見せたらきっとやめてしまうだろう。優しい彼のことだ、相手が嫌がったらどんなにしたくても堪えることだろう。  でも自分なら……自分だったら……。欲情してくれるのが嬉しくて自分から足を開いてしまうだろう。はしたない蕾を彼に擦り付けてしまうかもしれない。指を挿れられたら、それだけで嬉しくて果ててしまいそうになる。そして彼の身体に見合った大きな欲望が挿ってきたら、きっと幸せすぎて死んでしまいそうになる。どんなに乱暴にされたって絶対に悦んで甘い声を零し続けるだろう。彼の名を呼んでその逞しい身体にしがみつきながら腰を振るに違ないない。このみすぼらしい身体で欲情してくれたのが嬉しくてもっと気持ちよくなって欲しくて、そんなにないテクニック全てを用いて奉仕し続けるだろう。  その時、彼はどんな表情をするだろうか。あの優しい面はどれほど情熱的な形に変わるのだろうか。  想像してもうダメだった。  隆則は布団をはだけると仰向けになってスウェットと下着を膝まで摺り落とし、両手で分身を扱き始めた。同時に声にしないように何度も遥人の名を呼ぶ。カチカチに硬くなった双球を揉み同時に感じやすいくびれを擦り続ける。 「ひっ……あああ……はるとっ」  君が好きなんだ、浅ましい自分はもうただ見て助けるだけでは満足できない。できるなら好きになってもらいたい。若いころに憧れていた恋人たちが当たり前にするようなことがしたい。隣にいるだけで満たされて、見つめられるだけで恥ずかしいくらいに胸を高鳴らせ、手を握られたら幸福感が広がり唇が触れ合えば吐息を漏らす、そんな関係に。 「は……ると」  もう限界だ。これ以上はもう我慢できない。  隆則は腰を上下に動かしながら最後の瞬間を迎えようとした。  ガチャッ。 「五十嵐さん、呼びました?」

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