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第10話-5

「ぐっ……きっつ」  ドクンとそれが大きくなった。 「うそ……」  入ってきているのは紛れもない、遥人の欲望だ。しかもすぐということはゴムを付けていない。潤滑剤になりうるものがないまま挿れられ、あまりの痛みに何度も止めてくれるよう訴えるが、遥人は何も言わないまま奥へ奥へと突き挿れる。 「だめっ……やめて-っ」  痛みに泣きじゃくりながらひたすら彼の匂いのするシーツを掴み痛みに堪える。さっきとは違う意味の涙がどんどんとシーツに吸い込まれながら、それと同じように隆則の身体にも遥人の欲望が突き刺さっていく。根元まで挿れられてようやく残酷な動きが止まった。 「ひどい……」  言わずにはいられなかった。なぜこんなにも酷いことをするのか、と。 「酷いのは五十嵐さんでしょっ! 俺のことが好きなのに他のやつにやってもらって気持ちよくなってたんでしょ……ずっと心配してたのに……」  隆則の骨が浮き出た腰を掴む手に力が入った。 「ひっ」  乱暴な抽挿が開始され、隆則は悲鳴を上げながら臀部に力を入れた。それが遥人を悦ばせるとも知らず、ひたすら声だけの拒絶を繰り返すが疲労しきった身体は暴れるだけの気力などなかった。 (ひどい……なんで……?)  遥人が何を思ってこんなことをしているのだろうか。ただ荒々しいまでの抽挿に痛みと僅かな快楽を伴いながらひたすら悲しくなった。こんな暴力のようなことをしてしまうくらい、遥人を恋愛対象にしたことを怒っているか。 (ごめん……ほんとうにごめん)  まるでレイプのように犯され続けて、隆則はひたすら泣き続けた。  どれだけシーツを濡らしただろうか。乱暴に扱われた内壁だけではない、心までもが痛くてこのまま死にたくなる。 『ノンケを好きになっちゃだめですよ、傷つくの五十嵐さんなんですから』  本当にその通りだ。こんなことをされるほどひどい感情を自分は抱いたのだろうか。今まで伸び続けようとする葉が萎れ力なく首を垂れている。けれど、と思う。当たり前だ、隆則たちゲイは自然の摂理から反しているのだから。なぜ自分が同性にしか恋愛場を抱けないのかわからないまま、相手に気持ちをぶつけているのだ。自然の摂理の中を歩み続けてきた人々からしたらこの感情は理解の限界を超えた恐怖でしかないのかもしれない。いくら理解が始まったとはいえ、それは同じ性癖の者同士でやってくれればいいことで、動物園の檻の中でどれほど番おうがかまわないのは、檻の外という傍観者だからだ。獰猛な動物がいくらそこにいようと何をしていようと気にしないのと同じで、それが一歩でも檻の外に飛び出したらパニックを起こし排除のために銃殺しようとする。遥人はきっと、こんな感情を向けてくる得体のしれない存在を殺そうとして乱暴を繰り返しているのだ。

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