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第11話-2

 遥人はもともとゲイではない。むしろ自分が好きなってしまったからこちらの世界に引っ張り込んでしまったのではないかという罪悪感が心を押しつぶそうとしている。本来であれば同性など恋愛の対象ではなかったはずの彼が、ほんの小さなきっかけで変えてしまったのなら、隆則の罪は重大だ。彼の両親に謝罪してもしきれない。  恐怖と罪悪感。  この二つが今を不安にさせていた。  そして気付く。  ただ好きな気持ちを抱いて見つめるだけがどれだけ楽で安寧な行為だったのかを。一度でも実ってしまった恋を維持するにはどうすればいいのかわからない。システムのように検証と実装を繰り返せばいいのか。だが人間を相手にどうやって実装すればいいのかわかりかねた。  そして隆則は一番簡単な方法を選んだ、相手に嫌われないようひたすら追随することを。  誘われたら拒まず、何をしたいのか言えないまま、気が付けば新しい年の一日目で限界を迎えてしまった。 (これじゃダメだ……でもどうしたらいいのかわからない)  せめてセックスだけでも頻度を減らしてもらえないかと懇願するのが精いっぱいだった。 (だってあの日からずっと……時間があったらやってるのって無理だ)  隆則の身体のどこがまだ誰の手も触れていないのか、どこがまだ未開発なのか、探求に余念のない遥人は少しでも隆則の『初めて』に触れようと必死になっていた。襞の奥の洗浄もしたがったりするし、立ったまま風呂場で抱かれたこともあった。身長差があり過ぎてつま先立ちになりながら遥人の首筋に唇を押し当て必死で声を押さえたことまでもを思い出して、隆則は慌ててそれを掻き消した。 「仕事、仕事しよう」  なんせもう七草粥を用意しなければならない日になってしまっている。世間はとうに正月休みの空気は消え去り、また舞い込む依頼を調整しながら仕事を進めなければならないフェーズへと入っている。新年早々の仕事を順調にスケジュールより少し早めにこなしながら、頭の隅っこでは遥人のことを考えてしまう。正しくは、遥人との関係を、だ。  果たしてこのままでいいのだろうか。  手を動かし仕様書通り小野プログラムを組みながら、これからどうしようかと考えていく。 (好きになってくれたのは嬉しいんだ)  そう、奇跡が訪れたような嬉しさだ。まさか彼が自分を受け入れてくれるなんて想像もしていなかった。むしろ嫌われる可能性のほうがずっと高いし、こんな趣味を気味悪がられると思っていたから嬉しくて舞い上がりそうで、本当なら35年も不運が続いた自分に神から与えられた祝福なのかと勘違いしてしまっただろう。 (そのまま勘違いしていたかったかも)  今だって勘違いしたがっている心を抱えたまま、駄目だと別の声がこだまする。  遥人の気持ちは本当の恋ではない、と。

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