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第12話-2

 大学の傍ならバイト募集は多くあるが、できるだけ勉強に時間を当てたくて近所で探したが商店街は寂れてなかなか見つからない。どうしようかと思いあぐねていた矢先にあの火災が起きた。人々の声で飛び起きて家を出た遥人が見たのは、警察官に尋問されている隆則の姿だった。人々の話では火事の第一発見者で通報者だとか。アパートの人たちを助けたはずの彼が、なぜか泣き出しそうな顔をしながら警察に見下ろされる姿に、不思議と怒りが沸いた。近づいて話に聞き耳を立てると、彼が泣きそうな表情をしている理由がすぐに分かった。犯人扱いされ何度否定しても言葉を変え言質を取ろうとしている。  第一発見者が犯人、というのはドラマでよくある設定だが、隆則がそんなことをするようには見えなかった。温かい味噌汁一杯で泣きながらそれにも気づかないほど繊細な心を持った人が、放火などするはずがない。だからこそ警官に詰め寄った。 (その結果俺、隆則さんに拾われたんだよな)  顔見知りで行く当てのない遥人を自分の家へ招いたのはきっと、隆則の優しさからだ。 (でもあれ、凄かったな)  だが招いた部屋は物が散らかり過ぎて、一瞬泥棒が入ったのかと思ったくらいだ。だが理由を聞いてすぐに納得した。  死にそうな顔になるまで仕事をしていた隆則だ、家のことまで手が回らないのだろう、と。  家事は慣れている。  両親が忙しく働いているから弟たちの世話だけでなく家事一切も引き受けていた。家が汚いと咳が止まらなくなるハウスダストアレルギー持ちの弟のために家を磨き続けてきたし、偏った食事で病気が悪化しないよう図書館で借りた栄養学の本を元に食事も作ってきた。一人暮らしの隆則の部屋を片付けるなんて大したことではなかった。  隆則に雇ってもらえたのはとても助かった。  一人暮らしで自営業の彼の世話は正直、弟たちよりも手がかからず簡単だった。大学からの距離も変わらないばかりか、衣食住がついてさらにバイト代まで貰える環境は天国としか言いようがなかった。  だが。  新しい仕事が入る度にどんどん顔色を悪くしてやつれていくのが気になってしょうがなかった。自分が傍にいるのに初めて会ったあの時のように死にそうな顔をされるともっと何かしなくてはと思うようになった。だが仕事中の隆則はまともに食事を摂ると眠ってしまうからと満腹にならないように調整してるため、いつもテーブルの食事は手つかずだが、代わりに終わった後はとても美味しそうに食べてくれた。どんなものを出しても嬉しそうにぼそりと「美味しい」と言い、箸を止めることはなかった。
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