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第12話-3
きっとそのギャップにやられたんだ。
もっと彼のために何かしよう、もっと隆則が快適に仕事ができるようにしよう。
住む場所も食事も衣服も何不自由に与えられて何一つ恩返しができていないと思ったからだ。
そこに少しだけ違う感情が混じり始めたのは、仕事明けでふらふらと風呂場に向かう隆則を開放した時だ。初めて見た隆則の裸体は、想像していたよりもずっと貧相で、あばらは浮き出ているし腹はダイエットしている女性よりもへこんでいる。その上腰骨までもが浮き出るほどに痩せ細っていた。このままでは即身仏になりかねない。
そんな身体を自分の手でどうにかしたいと強く願った。自分よりもずっと年上なのに、すぐに自身を疎かにする不器用なこの人を自分が支えなければという使命感と共に、どこまでも守ってやりたいと願うようになった。いつしかその感情はエスカレートしていき、彼の何もかもが自分の手で支えたくなった。面倒を見るのも世話をするのも全部遥人でなければ気が済まなくなった。彼が口にする者は自分が用意したのでなければ嫌で、本当は軽食の菓子も手作りしてやりたかった。さすがに商品名を指定されてはそれもままならないが、代わりにこの家をどこまでも居心地のいい場所に磨き上げた。
少しでも体重を増やして欲しくて様々なものを用意した。
いつか遥人がいなければ生きていけないようになればいいと、心の深い部分で思うようになっていた。
その感情に付ける名前が分からないまま、ひたすら己の欲望に忠実に隆則の面倒を見続けてきた。だから年末年始の帰省も止めた。もし離れてしまったら隆則は自分が作ったのではない物を口にするのではないかと思ったからだ。
丁度国家資格の試験が終わりすぐに次の試験に向けて勉強するタイミングだったから、言い訳の材料にした。
これでずっと一緒にいられる。もしまた仕事明けに倒れそうになっても、自分が助けてやれる。前のように風呂に入れ綺麗に洗って拭いて布団に寝かしつけてやることができる。彼に触れていいのは自分だけだ。
できることなら隆則にも同じような感情を抱いて欲しい。欲はどんどんと高まっていき、クリスマス食事には実家にいた頃よりも力を入れ、驚きながらも喜んで食べてくれた時にはこの上なく心が満たされた。
そしてあの時が来た。
自分の名を呼びながら自慰をする隆則を見た瞬間、心に宿ったのは『やっとこの人は自分のものになった』というほの暗い感情だった。そうなってもらうように尽くし、ようやく望んだ通りになったのに、なぜか隆則は顔を真っ赤にしながら家から飛び出し何時間も帰ってこなかった。
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