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第13話-4

(だって俺、何の取柄も魅力もないもんな)  女の子のような柔らかい身体もなければ、誰からも好かれるような飛びぬけた容姿でもない。平凡を絵に描いたようなおじさんに今まで付き合ってくれた方が奇跡なのだ。何かしらの魔法がかかり、きっとそれが解けたのだ。資格試験が終わり結果を待つだけとなった今、ようやく遥人は現実を見つめ始めたのだろう。  15も年上の同性よりも年の近い異性のほうがずっと魅力的だと思ったって仕方ない。  セックスだって女の子とした方が気持ちいいに決まっている。 (だから、遥人は何も悪くない。俺が勝手に好きになったのが悪いんだ)  男同士の恋愛なんて先がない。誰にも言えないだろうし親にだって紹介できない。どんなに身体を重ねても子供を産むこともできなければ法の保護もない。どちらかに気持ちがなくなれば簡単に終わってしまう雲よりも軽い関係。  自分がゲイだと認識した時からわかりきっていることだろう、そんなの。むしろ年長者の自分がリスクを彼に伝えるべきだったんだ、流されて溺れるのではなく。 「ばか、だよな……」  抱かれて甘えさせてもらって、いつ終わってもいいように心構えをしろと自分に言い聞かせたくせに、いざその時が来たらこんなにも動揺している。遥人を手放せなくなっている。  初めて得た『恋人』という存在を失いたくないのか。 (違う……そうじゃない)  以前よりももっと好きになってしまったのだ。側にいるのが当たり前になって相手の存在が空気になるとはよく聞くが、隆則は逆に側にいてくれることが嬉しくて、積極的に触れ合ってくれようとするのが恥ずかしいと思いながらも遥人へと向かう気持ちを強めてしまった。  当たり前のように「好き」と言われ、「隆則さんを感じさせてるのは俺だ」と囁かれて、彼のために自分があるような錯覚に陥った。甘く愛されてもっと側にいたい、できればずっと側にいたいと、欲が出た。  元々遥人はゲイじゃないのに。女性の方が恋愛の対象だった可能性が高いのに、なにを勘違いしてしまったのだろうか。 「ほんと、バカだな」  泣きそうになるのをグッと堪え、それでも必死にコマンドを打ちこむ。何度も瞬きをして浮かんでくる涙を散らし、ぼやけようとする視界を必死で取り繕う。しゃくり上げそうになって唇を噛んだ。遥人に禁止を言い渡されている行為だが、そうでもしなければ泣き出しそうで辛くて、痛みで紛らわそうとする。  再びノックの音がして、間を置かず扉が開いた。

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