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第13話-8

 あんな下手くそな動きで煽られたというのは、今日はあの子としていなかったのだろうか。それとも大事過ぎて手を出しあぐねているのだろうか。気になっても訊けない。なにを言っていいかわからないからひたすら口を噤んだ。少し汗ばんだ肌から伝わってくる熱が心地よくていつまでもこうしていたい。 (でもあと少しだ……きっと彼はここから出ていく)  試験に受かったらもう隆則に用はないとどこかへ行ってしまうだろう。もしかしたらそれが就職してからかもしれない。そう遠くない未来を予想してしがみついた。  今だけだとしてもこうしていられる幸福を味わっていたい。離れた後も忘れないように。心地よい胸板に頬を付けて心音を感じ取る。 (このまま時間が止まればいいのに……)  そしたらずっと遥人と一緒にいられる。騙されててもいい、偽られてもいい、何もしないふりしてこのまま一緒に居続けたい。捨てられてしまったらきっともう復活などできない。きっと仕事のピークを迎えていたあの時よりもずっと死を夢想することだろう。今だってこんなに心が苦しいのに、本当に捨てられてしまったら生きているのが辛くなる。この温もりをなくしてしまったら、もう頑張る意味なんて何もない。  一人でだれにも迷惑をかけずに生きていくためにしていた仕事が、今では遥人が無事に大学を卒業し希望の職に就けるためだけに稼いでいるに近い。彼に不自由をさせるくらいなら、徹夜だってデスマーチだって気にしない。彼が何不自由なく生きていくためならなんだってする。  隆則にできるのはプログラミングくらいで、今は途切れることなく依頼を貰えてはいるが、それがいつまで続くかはわからない。だから今のうちにたくさんお金を貯めて、遥人が離れるその日まで何不自由なく過ごしてもらいたい。  隆則は零れそうになる涙を逞しい胸筋に擦り付けて誤魔化す。 「ちょっ……煽らないでくださいって。そうでなくても今日の隆則さん可愛すぎて俺我慢するのやっとなんですから」  そんなリップサービスはいらない。したいならいくらでもすればいい。この身体はもう彼の性処理の道具にすればいい。  また腰の上で踊るために起き上がろうとして阻まれた。 「だぁめ。隆則さんにしてもらうのも興奮するけど、やっぱりこっちがいい」  当然のようにベッドに組み敷かれ足を高く持ち上げられる。 「やっ、俺がするから……」 「ダメです。俺が遥人さんを気持ちよくさせたいんです」  覚悟してください。その一言を残してまだ固い遥人の欲望がいい場所ばかりを狙って動き始める。 「やあっ……それだめ、だめーっ……いいっ!」 「もうめちゃくちゃ悦がり狂ってくださいね」 「酷くしないでっ……はると、はると……」 「乳首で感じるようになったから、今晩もいっぱい弄りますね」  そのまま宣言通り狂ってなにがなんだかわからなくなるまでひたすら啼かされ続けた。

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