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第14話-3
仕事が始まったらしないルールも、最近は少しでも余裕ができれば欲しがって求めてくる。軽く済ませる日もあれば以前のように抱き潰すこともあって自分の自制のなさに嫌悪しながらも彼の心を掴みかねていた。
一体隆則に何があったのだろうか。
不安で勉強にも集中できない。せめて体重を増やして少しは健康になってもらおうと夜の散歩に連れ出すが、暗闇で手を握ろうとしては避けられる。自分がゲイであることをことのほか恥ずかしがっているだけなのか、それとも性欲だけを満たしたいだけなのかがわからない。
遥人としてはもっと恋人らしい時間を設けたいが、隆則が何を求めているのかわからなくてどうすることもできなかった。
だが、心の奥底では自分の知らない時間などあっては欲しくない。隆則の全てを把握して出かけるにしても常に自分が傍に付き添っていたい。
(本音はあの部屋から一歩も出したくないんだけどな)
閉じ込めて自分だけしか頼れない状況にして、ただひたすら囲い込みたいのだ。
夜の散歩を提案したのだって引きこもらせて減った体力を取り戻すためと言いながら、どこに行こうとも自分が傍から離れないと示すためでもある。
(あの人を一人にしてまた他の誰かに抱かれたら嫌だ)
全部を自分のものにしたい。一秒だって離れていたくない。だが物理的に無理なのであの部屋に押し込めることでどうにか妥協している。
なぜ乞うまで隆則を閉じ込めてしまうのか分からない。
もし他の誰かと恋愛したとしてここまでの感情が果たして芽生えるだろうか。
例えばさっきやってきた同級生と恋人になったとしても、買い出し一つ一人ではさせたくないと思うだろうか。
机上の空論だが簡単に否と答えられる。
その子がどこで誰と会おうとも全く興味がない。むしろ一人でできないことに苛立ちすら感じてしまう。
何もできない隆則が家事を始めたならばすぐにでも辞めさせるだろう。自分がするからやらないでくれと言いながら、何もできないままでいることを望み、面倒をすべて自分が見ているのだという満足感に浸ろうとするのに、なぜ他の相手ではそうならないのだろうか。
(あの人あんまりにも頼りないからな……)
言い訳だ。
いくら日常生活で頼りなくても、仕事の面ではひっきりなしに依頼が来ているほど多くの人から頼りにされている。どんな無茶な仕事でも実直に対応して日常生活すべてを投げうって完璧に納期内にこなす姿はきっと社会人の理想なのだろうが、側でみている遥人には危うげで心許なく映る。このまま消えてしまうのではないかと心配になって何度も何度もノックをせず彼の部屋を覗いてしまうくらい心配になる。
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