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第14話-4

 そして自分の手でこの不器用な人を守りたいと強く願うのだ。  すぐにでも崩れ落ちそうな細い身体をすぐ傍で支えたい。むしろ今の関係が逆転すればとすら考えてしまう。衣食住すべてを自分が与え籠の中の鳥にしてずっと愛でていたい。  そんな自分の感情がもしかしたら嫌になったのだろうか。  己の愛し方が狂っていると知ったのはゼミの女性陣に指摘されてからだ。 『年上の人でしょ? 自立した大人を囲い込みたいとか相手に失礼すぎる』  そう笑われて初めて気が付いた。 『年下の女の子とかだったら嬉しいかもしれないけど、それだって重過ぎるよ』 (俺って重過ぎるのかな?)  だが他のやり方がわからない。  指一本動かすことなく、ただ遥人に溺れさせたいというのはそれほどおかしなことなのだろうか。  今まで弟たちの面倒を見てきた遥人にとって、誰かに愛情を注ぐのは相手のすべてを賄ってやることのように思えるのだが、それではペットと変わらないと言われて壁にぶつかった。  ではあの人とどんな距離感をもって接したらいいのだろうか。  側にいれば触れたくなるし、何一つ不自由させたくないから欲しいものはすべて先回りして用意したくなる。セックスだってしたくなると思う前に存分に満足させれば他の男に抱かれようという気にならないはずだ。 (本当は毎日でもしたいくらいなんだけどな)  泣きそうな顔をしながら快楽に身体を震わす姿は何度目にしても興奮するし、もっともっと甘い声をあげながら自分の名前を呼んで欲しくなる。双球が空っぽになってもまだ感じては翌朝ベッドから起きれなくなるほどして、水を飲むのも食事をするのも遥人に頼らなければならない姿になって初めて心が満たされる。 (俺ってヤバい性癖だったのかな……もしかして)  それが嫌で隆則は自分がベッドの中で主導権を取ろうとしてフェラをしてきたり自分から挿れたりしているのだろうか。 (隆則さんも男だもんな……)  けれどそんな姿を目の当たりにすればするほど興奮して自分の手で啼かせたくなるのだ。もうこれ以上無理だとしがみ付きながらそれでも感じる姿が可愛くて庇護欲を掻き立てるとともに支配欲が強くなる。こんなになるまで隆則を感じさせて悦ばせているのは自分なんだと嬉しくてしょうがなくなってしまう。  だから自分の手ではないなにかで泣きそうな顔を見ると心配になり解決の手助けをしたくてしょうがなくなる。 「はぁ……」  もっと自分に力があれば。  社会人だったら仕事の悩みも話してくれるかもしれないが、遥人はまだ学生で、バイト経験しかない。 「早く大人になりたい」  もっと大人になってあの人を支えたい。もっと頼られる人間になりたい。  せめて試験の結果が出れば少しは遥人を認めてくれるだろうか。  解決の糸口のない悩みを抱えながら、とにかく結果を待つしかない遥人は目の前のシフトを作り上げることに注力した。できれば自分がかかわる時間を減らして、その間少しでも隆則の傍にいたい。  効率よく誰もが同じ味を出せ失敗させない方法を考えながら、二日目のシフトの全欄に教授の名前を記入し始めた。

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