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第15話-1
遥人といられる時間のタイムリミットが近づいてきているのを隆則はなんとなく感じていた。
近頃は大学が忙しいと食事はすべて先に作って冷蔵庫に入れるようになっているし、帰ってくるのも遅い。しかもあんなに纏わりついていたのに隆則に近づこうともしなくなった。それどころか、目が合っても慌てて反らしては何か言いたげな様子で、でも何も言わない。
「言えないんだろうな」
仕事のない日に遥人が家にいないため、隆則は何をしていいのかわからないままリビングのソファに腰かけ、テレビを流しながら賑やかな笑い声をBGMにぼんやりと自分がしなければならないことを整理していた。いつもなら必ず隣にある温もりがないのが少しだけ寂しい。
「まずは何といっても住むところだよな」
遥人が切り出せないのは絶対に生活環境を失ってしまう恐怖からだろう。あの女の子が実家に住んでいるなら転がり込むことはできないだろうし、試験が不合格の可能性もある。それを考えて踏ん切りがつけられないのだろう。
けれど心の重心が相手に傾いたまま、隆則の相手をするのも誠実な遥人には難しいはずだ。
「言えばいいのに……」
恋人がいるのに別に好きな人ができたなんて、まじめな彼は言えないだろう。だからといって言い出すのを待つのも辛かった。
振られれば吹っ切れる。少しだけ心が辛くなって何日か泣けばまた前の生活に戻れる。もう誰とも恋をせず、一人で生きていくんだと、遥人と過ごした時間を思い出に過ごせばいい。
いつか終わる恋だ。それは初めからわかっていた。
年上なのにずっと受け身で遥人に流されてばかりだった自分を嫌悪してしまう。何もできない隆則が相手だから突き放すこともできないのだろう。
むしろ、今日まで続いたことが不思議だ。もっと早くこの関係に疑問を抱いたって不思議じゃないし、突出した何かを持っているわけでもない隆則に飽きるのだって遅すぎるくらいだ。
どうしたら遥人のためになるんだろう。ソファの上で膝を抱えながらぼんやりと考えた。
きっと今、遥人は板挟みになって苦しんでいるはずだろう。だから目も合わせないし近づこうともしない。けれど彼の本音を聞くのも怖い。どっちを選べなんて選択肢を出せるほど隆則は自分に自信がなかった。現状のままなら互いに辛いだけで、側にいるのも苦痛になるかもしれない。
苦しませてまで側にいて欲しいわけではない。
心が離れてしまうのは織り込み済みなんだから気にしないで欲しいと告げて解放しなければ。
「あ、そうか。俺から言えばいいんだ」
振られることに慣れ過ぎて、片思いに慣れ過ぎて思いつきもしなかった。
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