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第16話-1

 学祭の準備というのは無駄に時間がかかる。たかだか焼きそばを焼くだけなのに野菜の切り方から指導したり手順を細かに記載したレシピを作らされたりとたった三日間のために費やす時間が多すぎて疲弊しながら遥人は帰路についていた。 (あー、めちゃくちゃ隆則さんに癒されたい)  力いっぱい抱きしめて、首筋まで真っ赤にしているのを視覚で楽しみながらキスしたい。恐々と伸ばされる舌をたっぷり味わって、それから一緒に風呂に入りたい。その後に続く行為を意識して少し挙動不審になる可愛さを堪能して、それから自分が与える快楽に狂っていくあの人を存分に味わいたい。 「最近また仕事が立て込んでるみたいだから無理かな?」  できればキスだけでもと思いながら、最近はすれ違いばかりで後姿か寝顔を見るだけだ。帰りが遅くなったせいで家の事もあまりできず迷惑をかけてしまっているし、食事も一緒に取る時間が少なくなっている。  なによりも、ゼミの女性陣から様々な指摘を受けすぎてどう接したらいいのかわからなくなってしまっていた。  欲望のままに動いたら嫌われるのではないかと少しだけ臆病になっている。自分の愛情が重すぎて息苦しいと思われたらどうしようと考えるあまり、上手く接することができなくて悶々としていた。顔を見たら絶対に風呂場に連れ込んで気が済むまで抱きつぶしてしまうから目を合わせることもできない。  本当は一日中、隆則のためだけに時間を使いたい。  彼のために家を綺麗にして、美味しくて温かい食事を作り、仕事の進捗を確認してとやりたくてしょうがない。そしてセックスした翌日はベッドから一歩も降りさせず世話を焼き尽くしたいのだ。何をするにも遥人を頼らないと駄目な状況にしてしまいたいが、それでは相手が窒息して嫌われると言われてしまっては何としても避けなくてはと自粛していた。 (だって隆則さん見てるだけで勃つからな、俺)  裸を見られるのも声を聴かれるのも好きではない様子だが、むしろ恥ずかしがっている仕草や必死に快楽を堪えようとする仕草に煽られては際限なく求めてしまうのだった。付き合い始めた頃からずっと弄り続けてきた胸の粒も最近では摘まんだだけで身体が跳ね分身を固くさせるようになったし、骨と皮だけだった身体に僅かだが肉もついてきて触り心地もよくなった。目の下のクマも消え生気のある表情を見るだけで、自分がここまで変えたんだという充足感が下半身に向かってしまう。  年や今までの生活のせいで張りや艶のなかった肌も少し瑞々しくなり、しばらく夜の散歩をしていたから筋肉もついてきて健康的になった隆則は遥人の欲情を煽ってやまない存在になってしまっている。 「学祭終わったらまた、散歩に連れ出さないと」

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