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第16話-2

 隆則にしてあげたいことが多すぎて、その時間が奪われるのはストレスでしかない。  まもなく資格試験の結果発表で、合格していたら一番に報告してこれからどうするかを相談したい。その時に自分のしていることをどう思っているかを訊こう。そして就職先をどうするかや二人のライフスタイルについても話し合いたい。 「就職先はなるべく家の傍がいいな。通勤に時間を取られるのもったいない」  しかも定時で帰れて収入の高いところを探さないと。就職して早く一人前になりたいが、だからといって隆則の世話に手を抜きたくはない。今までのようにはいかなくても彼が触れるもの口にする物すべて自分が用意したのでなくては嫌だ。その前に早くこの無駄に時間を取る学祭が終わらないことには世話が疎かになってしまう。朝のうちに三食分を作って冷蔵庫に入れるようにしているが、隆則が出してそのまま食べているのを知っているので、できるだけ早く作りたてを食べてもらえる環境に戻りたい。 「最近ちょっと痩せたような感じだもんな」  もう残暑は去り、長袖を纏わなければ夜道を歩けないほど気温が下がってきている。一日中エアコンをつけている部屋の中にいるからと言って冷えた料理では胃への負担がかかってしまう。それに、隆則と一緒に食事をしたい。ゼミのメンバーや教授から夕食の差し入れが続いたため、同じ食卓に着くことができていない。これではどれだけ食べてどの味付けが気に入ったかを確認できない。 「やばい、また始まった……」  そういう思考が相手を窮屈にさせるのだと注意されたのに、どこまでも隆則のことを管理したい欲求が気を抜いた隙間から顔を出しては膨らんでいく。  そこまで女性陣の言葉に耳を傾けるのは「自分がされたらどう思うか」と言われたからだ。  例えば隆則に料理を作ってもらうと想像したとき、すぐに包丁を取り上げる絵が頭に浮かんだ。あの人には危ないことなんかさせられない。だがもし隆則が遥人から包丁を取り上げ何もするなと命じたなら、素直に従いはするがもやもやが残る。世話をされるのは、隆則に尽くして尽くして自分が傍にいないとダメな人間にしたい遥人の性癖からかけ離れ過ぎていた。そんななんでもかんでもできてしまう隆則では、自分が傍にいる意味がなくなってしまう。  家事ができず少し不器用な生き方をするあの人だから好きになったのだ。  だが自分がもやもやする状況をもし隆則が感じていたとしたら。遥人のやることが窮屈だと思っていたとしたら。抱きつぶしては甲斐甲斐しく世話をするのが鬱陶しがられていたら。  考えれば考えるほど悪い結果しか出てこなくて怖くなった。 (さすがに抱きつぶすのはやり過ぎかな……少し頻度を減らしたら許してくれるかな)

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