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第16話-3

 まずは抱きつぶさない方向に考えられない遥人は、それも合わせて話し合わなければと考えていた。一人で考えていたって結論は出ない。ただ不安が募るだけだとこの一ヶ月で学んだ。ならきちんと隆則と話し合ってお互いが心地よい距離を築き上げるのが一番だ。  マンションが見える角を曲がるといつもの癖で部屋を見上げた。隆則が起きていたらどこかしらの電気がついているはずだが、今日は見える範囲はすべて暗い。 「寝てるのかな?」  だったら静かに部屋に入らないと。  部屋の前まで来ると遥人はゆっくりと扉の施錠を外し、真っ暗な室内でなるべく音を立てないようリビングに向かった。スマートフォンのライトで隆則の部屋の扉が閉まっているのを確認してからリビングの明かりを点ける。  今日はどれくらい食事をとってくれただろうかとダイニングテーブルを見れば、朝出かけた時に用意した朝食がそのまま置いてあり、その横に紙が一枚置かれていた。 「あれ?」  今日は出かける予定でもあったのだろうか。  いやそんなはずはない。仕事のスケジュールが書かれているカレンダーには今週は特に仕事もないはずだ。急な呼び出しでもあったのだろうかと訝しみながらそっと隆則の部屋の扉を開けた。 「え……?」  何台も積み上がっているパソコンもデスクもベッドも何もかもがなくなりガランとした室内が、カーテンを引いていない窓から差し込む月明かりのおかげでほの明るく映し出されていた。 「なんだ、これ……」  遥人は慌てて電気をつけたが家具だけではなくデスク横の壁に貼られたカレンダーも仕様書もない。クローセットを開ければ部屋と同じ広々とした空間が待ち受けていた。 「た、隆則さんっ!」  嫌な予感が駆け巡り、遥人は家じゅうの明かりを点けて回った。風呂場もトイレも遥人の部屋もそのままなのに、隆則に関するものだけがすべてなくなっている。  なにかのいたずらだろうか。  靴箱を開ければそこには遥人の靴しかなく、隆則がいた痕跡がどこにもない。 「なにこれ……夢?」  隆則のマンションで、絶対に彼がいると信じていた大前提が崩れて、遥人はその場にしゃがみこみそうになり、ダイニングテーブルに手を突いた。 「どういうことだよ……」  なぜ何もないんだ。まるで隆則という愛しい存在は自分が作り上げた幻想で、本当はそんな人間などこの世にいなかったかのではないか、そんな気がしてくる。 「そんなはずはない」  このマンションは隆則のものだ。こんなにも立派な部屋を自分は買うことができないし家族だって無理だ。  隆則は確かに存在して、自分は誰よりも大切にしていた。夢なんかじゃない。  では隆則はどこに行ったのか。

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