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第18話-4
常駐ということは継続的な契約になるから後輩や会社にとっては美味しい相手なのだろう。
『もしかして今、デスマ中っすか?』
「いや納品したばっか……あっ」
『やった! では明日の16時から打ち合わせがありますんで! 場所はですね……』
相変わらず強引に一方的に話が進められ、クレームを言うより先に場所をメモしてしまう。変わらず押しに弱い隆則は諾の返事もしないまま新しい仕事に就くことになってしまった。言いたいことだけ言って切れた電話相手に「今度会ったら覚えてろよ」と呟きながら、着ていく服がないことに気づいた。この一年ずっと服なんか買っていなくて、下着だって何日も同じものを履き続けるような生活だ。
「あー……とりあえず風呂入るか」
明日の夕方から打ち合わせなら、これからコインランドリーに行って洗った服を身に着け、早めに家を出て新しいのを買ってから出席すればいいかと予定を立てていく。
クライアントの前に出るためのきちんとした服が一枚もない。就職活動で着ていたスーツなどもうとうの昔にカビが生え廃棄してしまった。
「外資系って言ってたな……普段着じゃさすがに辛いよな」
プログラマーの隆則が客前に出ることは稀だ。普通は営業とSEがクライアントの要望をヒアリングして仕様書を作り、それに則ってプログラムを作成していく。プログラマーが分業して作ることもあるし一人で作ることもあるが、人前に出なくていいのが楽でSEになるのを拒んでいた隆則にとって、初めて会う人との打ち合わせは何を話していいのかわからないし、どんな格好が正解なのかも理解できない。
「とりあえずスーツとネクタイでいけばなんとかなるか」
次に着る機会があるかわからないが、無駄に緊張が募る。
相手に失礼のないよう、元後輩が困らないよう、とりあえず店に入れるようにとさっぱりした身体でコインランドリーに向かい、なんとか店に入れる条件を整えた隆則は、紳士服量販店で店員に捕まり、つま先から頭のてっぺんまで一式揃えさせられた。
(やっぱり店なんか怖くていやだ! 服は通販が一番だ!)
話しかけられておどおどとまともに対応できなかった自分のコミュニケーション能力のなさに心の中で泣きながら、指定された場所へと向かう。高層ビルの中腹階にある受付に向かうとすでに元後輩がそこにいた。
「五十嵐さん来てくれた……良かった。コミュ障だから来ないかもと思ってましたよ」
「今度なんか驕れ」
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