126 / 181
第18話-5
「なんでも驕ります、ファミレスでいいですか?」
「……もう少し高価なものはないのか?」
元後輩もスーツ姿であったことにほっとして気が緩む。時間五分前にテーブルの上にある電話で担当部署にかけ、中のオープンな商談ブースへと案内される。
席に着いてから小声で確認した。
「ところでここ、どんな会社なんだ?」
「すんません、言ってなかったですか俺。外資系の会計事務所なんですよ、ここ。国内外でも有名な監査法人ってヤツらしくて、先方から連絡をもらったのでこれ以上分かってません」
もっと調べておけと突っ込むところをスルーしてしまったのは『会計事務所』という言葉にドキリとしたせいだ。遥人が目指していた公認会計士が目指している場所だというだけでどうしてか泣きたくなった。今頃彼も、どこかの会計事務所に入って頑張っているだろうか。新卒採用ならもう二ヶ月が経ち、そろそろ仕事の雰囲気に慣れた頃だろうか。それとも……と考えてのめり込む前に慌てて消し去る。
彼のことを考えるといつも辛い気持ちになる。自分から逃げ出したくせに心が伴わない。
けれど今は仕事に集中だと何度も深呼吸をして気持ちを切り替える。元後輩はそんな隆則の行動を緊張しているだけだと捉えてなんとか落ち着かせようと話しかけてくれた。あまり長く待たされることなく担当者がやってきた。隆則とそう変わらない年齢だと思われる担当者と名刺を交換し、席に再度つくと仕事の話が始まった。隆則は持ってきたノートパソコンに慣れた手つきで内容を打ち込んでいく。
どうやら勤怠や顧客の情報を一括管理できる独自システムを求めている。担当会計士が今まで個々にやっていた内容を可視化できるようにしたいが、有名なソフトウェアだとすぐにハッキングされるのではないかと危惧して独自のシステムを構築したいため、一から開発してくれる会社を探していたという。
(まぁ大きな会社だとよくあることだな)
そう思いながらも、どこか違和感を覚えてしまうのはなぜだろうか。チラリと担当者を見ても、隆則に興味がないようで全く視線が合わない。
(なんでここで俺を指名したんだ?)
疑問を抱きながらとにかく必要事項を打ち込んでいく。
「遅くなって申し訳ございません」
大まかな説明の途中でブースに新たな声が入り、隆則は肩を震わせると同時に顔を上げた。
低いのによく通る声。忘れるはずがない。
「前の予定が押してしまって、すみませんでした」
ともだちにシェアしよう!