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第18話-9

(やっぱりそうだよな、遥人が俺の相手してたのってちょっと特殊な環境だからだし)  生活の全てを見て貰っていたから錯覚したに過ぎない。遥人にもそれが分かっているのだろう。冷静になってみた隆則の姿がどれだけみっともなく貧相なものかを理解したなら興味をなくしため息も出るだろう。 「顔、あげないとぶつかりますよ。……こっちです」  また腕を掴まれて駅へと向かう道を歩き出す。  何本も地下鉄が乗り入れているオフィス街にも多数の飲食店はある。そこを選ばないのは会社の人間に見られたくないに違いない。  隆則にできるのはただ静かに彼に従って歩くことだ。  地下鉄の改札を潜り抜け、到着した電車に乗り込む。行先は敢えて聞かなかった。  だが乗り継ぎの電車に乗ったとき、隆則は違和感を覚え始めた。 「え……?」  ずっと放そうとはしない指に力が入り僅かな痛みが生まれる。振り解くつもりはないがこの路線の先にあるのはあそこしかなかった。車窓がどんどんと見慣れたものへと変わり、慣れ親しんだ駅名をアナウンスが告げていく。 「降りますよ」  遥人がそう告げた後に流れた車内アナウンスは、あの寂れた商店街と近寄るのさえ怖がった自分名義のマンションがある駅名だ。一年半ぶりに見た駅はあの日と何も変わっていない。降りる人並みに押し出され、強い力でそのまま改札へと引きずられる。 「は……み、水谷……さん?」 「食事しながら話をするだけです」  話すことなどあるのだろうか。  分からない不安に押しつぶされそうになりながら引きずられるように進めば、あのマンションが見えてきた。久しぶりなのに酷く懐かしさが宿る。一年半前まで自分はあの部屋で、とてつもなく幸せで同時にとてつもなく悲しい日々を過ごしていた。いつ終わるかわからない幸福に怯えながら耐えきれず逃げ出したあの部屋にもう一度足を踏み入れるとは想像もしていなかった。  あんな立派な会社に就職したなら遥人はとうにこの部屋を出ているだろうと思っていたが、開いた扉の向こうはあの日のままだった。家具も配置も何一つ変わっていない。遥人が毎日のように磨いてくれていた頃と変わらない綺麗なフローリングがあり、ゴミ一つ落ちていない。  何も変わっていなくてむしろ怖かった。立ち尽くす隆則の腕をようやく離した遥人は鍵を閉めチェーンまでかけた玄関の扉と同じように、リビングの扉にも鍵をかけた。 「座ってください、隆則さんの家なんですから」 「あ……うん」

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