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第21話-5

 反抗期真っ盛りの末の弟に至っては『出かける場所だけじゃなくて、誰に会っていつ帰ってくるかまで管理されてそうで可哀そう』と生意気なことを口にしていて、当たらずと雖も遠からずな感想にへこんでいる。 「隆則さんとこれからも一緒にいたい意思表明です。まぁ気持ちとしてはプロポーズなんですけどね」  軽く言った言葉を果たして疲労しきった隆則の頭は処理してくれるだろうか。 「ああ、プロポーズか……そうか…………え?」  男同士で結婚はできないが、三年も恋人として一緒に住んでいたら妥当な年数だろう。保証は何もないからこそ、周囲に認めてもらうしかない。 「でもっあの……遥人の立場が……」 「会社ではとっくに公表してますし、マイノリティだからって言いがかりをつけられる職場じゃありません。そんなことしたら本社から人権問題でどやされます」  遥人が勤めているのが外資系の企業だということを思い出したのか、肩から力を抜いた隆則はそれでも不安を隠せないようだ。 「ねえ、隆則さん。恋人でも夫婦でも、年がどれだけ離れてても立場は対等なんですよ。自分の方が年上だからって何でもかんでも背負い込まないでください」  セックスの時くらいどこが感じるとか言ったっておかしくはないのだ。その延長で、どうして欲しいのか何をしたいのか、気軽に口にしていいのだと必死に伝える。 「……分かってる、そんなこと。でも……」 「でも、何ですか?」  隆則が自分の言葉を紡ぐまでひたすら待つ。 「……俺の方が年上だし……遥人に何かしてやりたいし……」 「昔、ゼミの教授が言われたんです。恋愛はバランスシートと同じだって」 「バランスシートって貸借対照表か?」 「はい。右と左が同じじゃなきゃ成立しないって。恋愛も同じで『する』ばかりじゃなくてちゃんと『される』が同じくらいじゃないと成立しないそうです。俺は隆則さんにたくさんしてもらいました。お金の面でもそうですけど、勉強できる環境をずっと維持してもらって、まだその恩を返していない。だからこそ返させて欲しいです」  今まで言葉少なに愛された分、愛したいと思ってつい自分の欲望を押し付けてしまいがちだが、昔に比べて僅かなりでも隆則の気持ちを優先したいと思っている。  彼が不安ならそれを拭ってあげたい。  少しでも二人の関係に心配があるなら取り払ってあげたい。  その第一段階として家族に紹介したいのだ。  顔を真っ赤にする隆則は今何を考えているのだろうか。

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