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1.ミナミのタスマニアデビル⑨

「いや……別に。庄助は面白いと思っただけだ」 「え! おもろいことまだ何も言うてないのに?」 「笑ったり怒ったり、バラエティ番組から飛び出してきたみたいに賑やかだ。関西人はみんなそうなのか?」 「ふん、逆に関東人はみんなカゲみたいな無表情なんか? そんなわけないやろ?」 「……考えたこともなかった。ふむ、なるほど。やっぱり面白いな」  別にウケを狙って言ったわけでもないのに、景虎は謎の納得をしている。事務所の借りている、屋根付きの月極の駐車場に車を停める間、なるほどと繰り返していた。庄助はバツが悪くなった。  しばらく一緒に居てわかったが、遠藤景虎という男はやはりだいぶ変わっているというか、世間ズレしている。  一般の若い人に通じる話のネタが通じない。例えば流行りの動画の話、有名人や音楽やスポーツの話、好きな漫画やゲームや映画の話、果てはネットミームまで……庄助は、同世代と会話する時に使う会話の引き出しを開け続けてきたが、いずれにも景虎はピントのズレた返答をするだけだった。  服のセンスも独特だし、仕事の待ち時間に動物図鑑を読んでいるのもわけがわからない。モデルみたいな高身長にキレイな顔を持っているのにも関わらず、恋人はいないと話す景虎に、まあそうやろうな……と、庄助は得心した。所謂残念なイケメンというやつだ。 「おい、遠藤」  車から出たところを、男の声が呼び止めた。二人してそちらを向くと、いかにもガラの悪そうな若い男が3人、他の車の陰から出てきたところだった。一人は角材を手に持っている。 「憶えてるよな俺らのこと?」  真ん中の、90年代に流行ったようなどこか古めかしい色合いの茶髪の男は、ニヤつきながら景虎を睨めつけるように上から下まで見た。憶えているかと聞かれて、景虎は少し考えて答えた。 「……自信はあまりないが、確か多摩動物公園のボルネオオランウータンの飼育員の人だな?」  自信はないといいつつ、景虎は指を鳴らして少し嬉しそうに答えた。 「そんなわけねえだろ殺すぞ!」 「違うのか、すまない」  男が吠えたのにも関わらず、本当に申し訳なさそうに謝罪する景虎に、庄助は驚きを通り越してなんやコイツ、と引いてしまった。 「忘れたとは言わせねえんだよ。先週にお前とお前のとこのヒゲのオッサンに、俺ら殴られてんだわ」 「ああ……ウチのシマのラウンジで女のスカートに手を入れた半グレの奴らか。自業自得じゃないのか?」 「うるせえ、俺ら黒弧蛇入(くろこだいる)をナメんなよ!? 倍にして返してやる……つーかそこのガキ、遠藤の子分か」 「ガキやないっ」 指を差されて、庄助はムッとして前に躍り出ようとした。が、景虎に首根っこを捕まえられた。 「下がってろ」 「なんで! いやや!」 「はあ……あのな庄助。人は拳で一発殴られただけでも、下手すれば死ぬんだ。お前の好きなヤクザ映画みたいに、腹を銃で撃たれてから何分も喋ったりできないんだぞ」 「しっ、知ってるし」 「何呑気に喋ってんだ、死ね!」

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