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5.恐怖! 人喰いオポッサム、闇に消ゆ!②
「んんっ、ぃ……うっ、はっ、あぁっ」
上から景虎の顔や前髪が降ってくると、まともに鼻でその香りを吸い込んでしまう。なんとなく落ち着くいい匂いだと感じてしまうのが、庄助にとってすごく癪だった。
唾液でぬめった唇を、音を立てて啄むように何度も吸われる。そんなねちっこいキスは、女の子とだってしたことがない。今後誰かとキスするたびに、景虎のした様々なやり方を思い出すだろう。それくらいに鮮烈な体験を今、している。
「ひ……」
脚で挟んでいる景虎の腰が自分の下腹に押し付けられると、ゴリゴリと服越しに硬いものが当たるのを感じる。狼狽えるのを面白がるように強めに擦ると、庄助の目の表面がじわりと熱っぽい涙に潤む。
「や、あかんっ! チューだけって言うた……!」
「何だ? お前の言う通りキスしかしてないだろ?」
そう言ってまた景虎は、庄助の唇に噛みついた。小さく尖った犬歯は、舐めるとつるつるしている。少し前にもあんなにたくさんキスをしたのに、びくびくしてちっとも慣れる気配がしない。
力でどうにでもなる存在を、組み敷いてしつこく焦らしていじめている。暴力と似て非なる背徳感に、得も言われぬ興奮が満ちてくる。
「でもぉ、ん……んっ……やめろって、もう……!」
「はあ、庄助……」
ほんまはヤりたいくせに、勃起してるくせに。庄助はそう思ったけれど、勃起しているのは自分も同じだった。こんなのはヘンだと思うのに、身体も頭も痺れて言うことを聞かない。抵抗するのはかろうじて残っている理性の部分だけで、それももはや上辺の拒否の言葉だけだった。
「うきゅ……っ、んぐぅ……」
指と指を絡ませてマットに押し付けられた恋人繋ぎの状態の手がふと目に入って、腰がズキンと疼いた。乱暴で強くて血管の浮いた景虎の手が、今は優しく自分の手を握っているということにドキドキした。
「んあっ、あ……! や……」
こちらが手を伸ばせばきっと景虎は応えてくれる。キスの前借りとか言いつつ、我慢できなくなって庄助が求めるのを待っている。やっぱりこいつは卑怯者や。庄助は後悔と悦楽でどろどろになりながら、深い口づけを受け入れた。もっと、もっとほしい。
「カゲぇ……」
唇がきつく触れ合う。自らの熱くて湿った舌を景虎の歯に押し付けようと、庄助が歯列を開けたその時。
ピリリリ、ピリリリと、無粋な通話の着信音が部屋に鳴り響いた。景虎のスマートフォンだった。
景虎はソファの足元に放りっぱなしのそれを拾って画面を見ると、眉を少し動かした。ふう、と一つ息を吐き出すと身体を起こし、キッチンの流しの前まで移動する。
「は……」
突然解放された熱が、行き場をなくして宙ぶらりんになった。はい、もしもし。と、真面目なトーンの景虎の声が、少し離れた場所から聞こえる。
庄助は服の上からペニスにゆるく触れた。硬く、芯を持っている。景虎がキッチンに立って軽くこちらを振り向いたので、庄助は慌ててそこから手を離して、素早く身体を起こした。
すぐに通話を終えた景虎はクローゼットを開けると、外出用の奇妙な柄の開襟シャツをハンガーごと手に取り、ちょっと出てくる、と言った。
「今から!?」
庄助は驚いた。もう風呂も入ったし、時間は21時を回ろうとしているのに。さっきまでの砂を吐くほどの甘い雰囲気が嘘のように、景虎はテキパキと着替えてゆく。
「国枝さんが俺を呼んでるからな。あの人は酔っ払うとクセが悪い。他の組の客と揉め事が起こらないようにしてくる」
「酒飲んどんの? どこで?」
「さあな、キャバクラかそこらへんだろう」
「行きたい!」
キャバクラと聞いて庄助は奮い立ったが、景虎は首を振った。
「話、聞いてたか? 他の組の奴も同じ店に来てるから、揉めるかもしれないって言ってるんだ。庄助は先に寝て待っててくれ」
「は? 俺だって喧嘩くらいできる。連れてってくれよ!」
「はあ……」
庄助の悪気のない懇願を聞いて、景虎はわざとらしくため息をついた。こいつこの前のこと懲りてないな、やっぱりアホだなと思った。
景虎は、スッと庄助の下腹を指さすと、
「勃起してるぞ」
と、事もなげに言ってシャツを羽織った。庄助は慌ててそこを手で押さえて隠し、カゲこそ! と言い返したが、景虎のものはとっくに平常の状態に戻っていた。
「帰ったら続きをするか?」
冗談とも本気ともつかないトーンで、景虎は言った。
「いらんいらん! 死ね! いっぺん死んでこい!」
玄関で革靴を履く景虎の背中に向けて、全力で呪いの言葉を浴びせる。さっきまで情熱的なキスをしてきた相手が、こうもすんなり出ていくものかと、ひとり取り残された部屋で庄助は悶々とした。
「クソがよ……」
唇を拭う。むかつく、除け者にしやがって。こんな状態でほっていきやがって。
触れられた部分がまだ熱かった。庄助はいじけたようにベッドに寝転がり、身体を丸めた。
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