41 / 175
【番外編】シラフじゃできへんっ♡⑨
「まじでミイラになる」
「ならんだろ」
「なりかけとるやろがい!」
セックスの間中水分を取らなさすぎて、脱水症状になりかけた。行為のあと、手がぶるぶる震えていて、庄助は生命の危険を感じた。冷蔵庫から出したペットボトルの水をがぶ飲みして、ようやく一息ついた。
「あったま痛い……もうしばらく酒飲まん」
庄助がベッドに倒れ込むと、景虎の手が髪に触れてくる。
「新年会行かないのか」
「もうええやろ……めんどくさい。家で漫才見とくほうがマシやて」
「コンパニオンの女も来るのに」
「……まあ新年の漫才って同じのなんべんもやるし、行ってもいいけどな新年会」
すぐに手のひらを返した庄助に、景虎は苦笑いをする。
「あ! せや。明日オカンに電話せな。今年は正月帰らんかったけど、来年の盆には帰るって言うとかな」
「来年の、盆」
季節が巡って、暑くなって半袖になって、そうしたらまた次の冬もやってくる。そんなことを考えるのはもしかしたら初めてなのではないだろうか。景虎は自分に驚いた。
「そうか、庄助。来年もよろしく」
「は?」
「初めて心から言ったんだ、来年もよろしくって」
「なんなんそれキモ……はぁ、ねむ」
庄助はあくびをすると、景虎の手のひらに頬を載せた。
「……こっち、来えへんのかよ」
「ん? まだやり足りないのか?」
「死んでくれ。ちゃうって……寒いから、足が。つま先が。だから」
景虎は自分の裸の胸の中に、ぶちぶちと言い訳ばかりする庄助の頭を抱き込むと、笑った。
「確かに。冷えてるな」
足を絡めて布団をかぶる。慣れないベッドの中で二人して沈黙すると、暖房のごうごうという音しか聞こえなくなる。
庄助のつま先がぽかぽかとあたたまる頃、外は凍てつく夜を深める。いつまで二人でこうして眠れるのだろうか。景虎は思った。
ネコ科の動物は、過去のことも未来のこともわからない。今のことだけしか考えない。そういう話を何かで読んだ。
であれば、もう自分は虎ではないかもしれない。胸元の刺青の上で、庄助があどけない顔で眠りに落ちている。
景虎は静かに、目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!