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8.殺人と寿司③

 庄助はいつかの景虎の言葉を思い出していた。 『殴られて、犯されて、いじめ抜かれてボロボロにされて。もう殺してくださいって泣く頃には、山に捨ててもらえるかもな』  殴られるのはわかるけれど、男だから犯されるなんてことはそうそうないと思っていた。でもそんなことはなかった。相手を踏みにじるために、手段を選ばない人間もいるのだ。 「おか……っ!? な、なんでやねん、普通に殺せっ!」  納得がいかなさすぎて、庄助は暴れた。通すべき筋を通して男として死ぬのは良かった、いや、ほんとはちっとも良くないのだが。でも、意味もなく這いつくばらされて、いたずらに尊厳を奪われて惨めに泣かされたあとにむざむざ殺されるのはごめんだった。 「あれ? やっとピーピー喚いてくれるようになったじゃん。そうそう、そっちのほうが俺らもやりがいがあるからさ」  茶髪は折り畳みナイフをズボンのポケットにしまい込むと、庄助の頬に触れた。 「い……触んなっ!」  信じられないほど不快だ。カサついて毛羽立ったような指先が、肌の柔らかい部分に触れる。そのたびにゾワゾワと、虫に這われたほうがマシだというほどの嫌悪感が庄助を襲った。 「お、肌キレー。いいね、子供に無理矢理ぶち込むみたいで興奮するわ……っ痛!?」  遠慮なく撫で回してくる男の指に食らいついた。噛み砕く勢いで顎を閉じ、前歯を骨に食い込ませる。茶髪は痛みに悲鳴を上げた。が、 「はがっ……!」  肥った男の相撲取りのように分厚い平手が、庄助の横っ面を思い切りはたいた。噛みついていた指は庄助の口から離れ、星が飛ぶ視界の中、歯の跡が深く刻まれた茶髪の指がうっすらと見えた。  首の筋が鈍く痛むと同時に、鼻の奥から温い液体が流れてきて、唇に垂れた。鼻血だ。 「ぅ……」 「痛ぇなクソガキ」  椅子ごと仰向けに引き倒されて床に背中と後頭部をぶつけた。ビニールが敷いてあるとはいえ、コンクリートの床は硬くて冷たい。ザラザラとした感触が、裸の肩に伝わってくる。  ジーンズを抜き去られ、パンツを下ろされそうになるのを必死に足を閉じて抵抗した。 「やめ……っ!」 「いい度胸だ、ケツの穴から腸が垂れ下がってくるまで掘ってやる。覚悟しな」 「い、イヤじゃボケっ!」  恐ろしいことを言われて総毛立った。  庄助は鼻血が滴るのも構わず、肥った男の膝下目がけて、身体をぐるりと反転させて体当たりをした。男はよろめきたたらを踏んだ。  そのまま、玄関のドアまで、庄助はもつれるように裸のまま走った。手を拘束されて開けられないことはわかっていたが、玄関の近くまで言って大きな声で叫べば、近くのビルの誰かに聞こえるかもしれない。みすみす黙って犯されされたくはなかった。 「待て!」  すぐに立て直して、肥った男が飛びかかってきた。庄助は再度地面に、今度はうつ伏せに肩から倒れた。体重でビニールシートが破れて、剥き出しになったコンクリートに膝が擦れた。 「がひ……ッ!」  背中を踏まれてまた息が止まる。身体中、擦り傷や打撲だらけで、痛くない場所のほうが少ないほどだった。それでも、ふざけて軽い力でいたぶられているだけだからこの程度で済んでいる。本格的なリンチの段階に入ったら一体どうなってしまうのか、もう想像したくなかった。  大阪に居る母親のこと、田舎の祖父母のこと、幼馴染や友人たちのことを、まるで走馬灯のように思い出して、庄助は泣きそうになった。  裸の背中に体重をかけられ、靴の底に踏みにじられた皮膚がひどく痛む。身動きが取れない。ついにパンツをずらされて、剥き出しの尻を拡げられた。

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