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8.殺人と寿司④
「……っ見るな、やめろっ!」
「あー狭そう。庄助ちゃんて、処女だよね?」
何がおかしいのか茶髪が笑った。コンドームを装着した指で、無遠慮に探られて縮み上がった。残念ながら、先日景虎によって破瓜されたそこは初めてではない。だが、二度目であろうがいきなり潤いもなしに入るわけがない。
「うぐぅっ……」
「怖がってぎゅーぎゅーに閉じてる。この入り口さえ開けば、ゴム着けたら入ると思うんだけどな」
カチャカチャとベルトを外す音、ファスナーを引き下げる音、そのあとにペニスを擦るごそごそという小さな音が聞こえた。背後で行われていることが見えないのが、庄助にとって救いでもあり恐怖でもあった。
「そのナイフでちょっと切って拡げれば? 血で滑りも良くなるんじゃない」
「は!? ふざけんな!」
ピアスの男の恐ろしすぎる提案に、庄助は目を剥いた。
「嫌だったら力抜いて大人しくしろ」
チキチキと刃が擦れる音が聞こえて血の気が引いた。全身のバネを使って躙り上がろうとしたが、砂浴びをするハムスターのように、硬い床に身体を擦り付けるだけの結果に終わった。
地面に接地している頬から鉄錆の味がした。頭に流れる血液が、こめかみの辺りでどくどくと脈動する。
尻の穴にグッと勃起したペニスが押し当てられたが、やはりちっとも入らない。
景虎に犯されたときの、痛くて怖いけれど腰が甘く痺れるような感覚と全然違う。身体が本当に拒んで、冷たく硬くなってゆくのがわかった。気持ち悪くて吐き気がした。
「やっぱ入らんわ。ちょっとチクッとするけど、我慢してな」
「っ……ひう、うゔっ……! やめっ、ひあっあ、ぎ……!」
尻たぶを割られ、きつく閉じた穴をどこを切り裂くか探るように、男の指が圧迫する。鈍痛にうっかりと喉から漏れ出た悲鳴を、男たちが嘲笑う声が聞こえた。
「おい、動画撮ってろ。庄助ちゃんが男に犯されて泣いてよがってる映像、ちゃんと事務所に送ってやるからな。大丈夫、死んだあとだから恥ずかしくないだろ?」
そんなことをされるくらいなら、今すぐ死んだほうがマシだと庄助は本気で思った。
絶対に見られたくない、特に景虎には。
庄助は叫び出しそうになった。窄まった尻の穴に、ひんやりとしたナイフの刃が押し当てられる。大して寒くもないのに奥歯が鳴った。
「いややぁ、カゲっ……!」
そんなつもりはなかったのに、うっかり名前を呼んでしまって、その名前の響きに涙が出た。景虎の名前を呼んでいた日常が、あまりにも遠いことのように思えた。
ここでいたぶられて殺されて、そうしたら景虎はどう思うだろうか。たかが一晩抱いただけの存在でも、少しは悲しむだろうか……なんて考えることがもう、女々しくて嫌になる。
命乞いをして、景虎を売る選択肢だってある。でもどうしても嫌だった。それをしてしまったら、23年間自分を自分たらしめていた大切な何かがこぼれ落ちて、例え命が助かったとしても空っぽになってしまう。庄助はそんな気がしていたからこそ、こんな限界の状態でも痛みと恥辱に耐えていた。
これは任侠道を、人の道を通した結果だと自分に言い聞かせた。言い聞かせたからと言って、痛みが消えるわけではない。せめて犯されている間、情けない声を出さないようにと、殴られて腫れた唇をきつく噛んだ。
その時だった。ガチガチ……と、小さくなにかを巻き上げるような音がした。ドアの向こうだろうか? 庄助は大きな声を上げようとしたが、男たちも勘付いたようで口を塞がれてしまった。
「んぅ……!」
音はそれきり沈黙した。と、思うと少しの間をおいて、ブゥゥンとモーターの唸るような音が聞こえた。
ピアスの男が恐る恐る、ドアのスコープを覗き込んだ。それと同時に、ギュルギュルと音を立てながら、何かが回転しながらドアノブの下から突き出てきた。
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