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9.デビル、めざめる②*
「ひゃぐっ……あっ、あ……! だって……」
2つの肉粒をコリコリと捏ねられ、身悶えた。
「だって、なんだ?」
「……むかついたんやもん」
「あの婆さんのことか? お前が何をそんなに怒ることがあるんだ」
「知ってるばーちゃんがかわいそうな目に合うのイヤやんけ。俺は、シンネンを持って極道やりたいねん」
庄助の語るところの、極道の信念が何なのか、景虎にはよくわからない。が、庄助なりに、何らかの正義感や倫理に基づいて行動しているということだけはわかった。
景虎は溜息をつくが、そこに厭な気持ちはなかった。庄助が何を正義とし、何に怒るのか興味があるし、彼を深く知ってゆく時間が自分にはある。そう思うと長く空いていた胸の穴が、じわりと何か熱いもので満ちてくるのがわかった。
「とにかく、ひとりで先走るな」
首筋に口づけたまま、ぎゅっと乳首に爪を立てると、ぬるい湯と一緒に庄助の身体が跳ねた。
「く、わかったって……ん、ひんっ」
あの日から、景虎に触れられてからずっとおかしい。小指の先よりずっと小さいそこが、アンテナみたいに快感を拾うようになってしまった。景虎の指の動きがいちいち繊細にわかる。目を閉じていても、どの部分でこすられているかとか、どの指を使って引っ張られているかとか、そういうどうでもいいことがわかってしまう。
「ふ……んっ、ぁ……」
風呂場の円形の乳白色の照明が、水面に映っている。庄助は自分の胸元、その水面の白くてまあるい光が、景虎の手の動きでぐにゃぐにゃとゼリーのように形を変えるのを見ていた。好き放題に弄くられる自分の乳首を、まともに見るのには抵抗があった。
「なあ、俺は庄助が好きだ。多分」
ここにきて庄助も、うっすらそんな気はしていた。でも、改めて言われてもどうしたらいいかわからない。
「多分てなんやねん……」
「よくわからん。もしかしたらヤりたいだけなのかもしれない」
「正直すぎやろ」
景虎は真剣な表情で、庄助のろくにヒゲの生えない子供みたいな顎を掴む。柔らかい頬に自分の指が沈むのを、不思議な気持ちで見ていた。
「だから、自分の気持ちを確かめたい」
「なにを……」
「1回ヤらせてくれ」
「アホかっ! そんなアホなこと誰が……つーかルールに従え! チューはもう前借りしたやろ、胸を揉むなっ!」
「庄助はけっこう融通がきかないんだな……」
「お前なァ……あ、おい……っ」
強引に上を向かせると庄助は瞳を戸惑いに揺らがせ、その後諦めたように目を伏せた。指でこじ開けた口の隙間から、下の奥歯が見える。小さく白い臼歯が並んでいるのを見るだけで胸がいっぱいになるのを感じ、景虎は改めて自覚する。自分が、庄助に恋をしていることを。
「好きだ」
唇を触れさせて、もう一度言ってみる。空気の振動が熱い息と一緒に、2人の口の中に侵入する。殴られた時に切れて腫れた箇所を探るように、景虎は丹念に唇と粘膜に舌を這わせた。庄助は「好きだ」という言葉に返事はしないものの、薄目を開けてされるがままにしている。
口づけを何度も繰り返しているうちに、湯船の湯よりも身体のほうがもう熱くなってくる。息が上がる。唇を離した隙に、庄助は意を決したように言った。
「と、特別に……」
「ん?」
「助けてくれたから、特別に……ちょっとだけ、さわっていい……」
なんとも自分勝手な特別だ、と景虎は笑った。キスの間、頭の中で抱かれる理由をこね回していたのだと思うと、いじらしくてたまらない。シャワーからひときわおおきな水滴が落ちる音がして、それが合図みたいに景虎はもう一度庄助の、小さく震える唇に噛みついた。
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