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9.デビル、めざめる③*
風呂上がりにタオルで髪と身体を乱暴に拭かれて、庄助は初めて景虎に会ったときのことを思い出した。
(あのときも、カゲは雨で濡れた俺の髪の毛をガシガシ拭いてきた。変なやつって思ったし実際変なやつやけど、マジでこんな変な関係になるとは考えもせんかった)
庄助は、自分にないものを持っている景虎を羨ましく思う。男っぽいのにきれいな顔、恵まれた身長や体格、低い声、なによりも畏怖さえ感じるその強さ。
(カゲの喧嘩の強さは、なんか俺のとは違う)
庄助は今日までの景虎のことを見てきて、なんとなくそう思う。
強いのに、危うい。
暴力にも武器にもひるまない、防衛本能としての恐怖という感情が、景虎にはすっぽり欠落しているみたいで、それが少し恐ろしくもある。恐ろしいが、魅惑的だった。
美しい獣の爪と牙が弱きものをねじ伏せるのを、間近で見てしまってからはもう、目が離せない。
(そんなんじゃない。カゲは、俺なんかより圧倒的に体がでかいし力も強いのに、なんとなくほっとかれへん。変な奴やし、気になる。ただそれだけや)
庄助は自分に言い訳せずにはいられなかった。性格上、グレーのまま保留しておくのが苦手で、なんとか気持ちに説明をつけたかった。
「庄助、おい……何ぼんやりしてる」
頭の上から声が降ってきて、庄助は目線だけをそちらに向けた。出会ったときと同じ、ごつごつと骨ばった指が金色の髪を梳いた。
夜は深まり、もうすぐ夜中の2時になろうとしていた。部屋の電気を消していると、肌や音や匂いの感覚がより鋭敏になる気がする。部屋の空気が冷えているのを感じる。
「どうした、手が止まってるぞ」
「……んうぅ」
精一杯睨みつけたつもりだったが、景虎は庄助と目が合うと、愛おしそうに目尻を下げた。そのままもう一度髪を撫でると、庄助の後ろ頭を両手でホールドした。
「ぬ、ぅっ……ん!」
庄助はもがいた。さっきから、跪いてペニスを咥えさせられている。触っていいとは言ったが、触りたいとは一言も言っていないのに。
気づけばまたいつものソファベッドの上で絡み合っている。いい加減、普段座る場所と盛る場所を分けたほうがいいのだろうか。ぼうっとした頭で考えたけれど、答えは出なかった。
景虎のものは太くて長くて、先っぽだけで口の中がいっぱいになってしまう。庄助は逃れようと頭を引いたが、逆に引き寄せられて喉の奥にまで押し込まれた。
「ぐっ、う……も゙っ、ん……んんん~!」
苦しくて目がチカチカする。鼻で吸う息だけでは足りない、口を大きく開けて、下顎に開いたかすかな隙間から酸素を求めた。舌の上にぼってりと乗った硬いペニスがぴくんと跳ねた。
「そのまま舌で裏筋のところを……そう、奥から手前に動かしてみろ」
「んぐ……ぷはっ」
そうは言われても舌が攣りそうだし、その前に窒息しそうだ。我慢できず吐き出すと、景虎のそれは腹に頭をぺちんとぶつけるように戻っていった。庄助は咳き込みながらその、10代のような角度に恐れおののく。しばらく膝立ちになっていたので、床で擦れた関節が痛かった。
「もうっ……無理やってえ……」
泣き言を言いながら景虎の太い腿に縋って、庄助は息を整える。すぐに頬を唾液まみれのペニスの先端でぺちぺちと叩かれ、咥えろと促される。屈辱だった。
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