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9.デビル、めざめる④*
「ふ……うぐぅ……」
言われるまま咥えようとしても、疲れた顎が言うことを聞かない。うまく口に入らず、滑った亀頭がばちんと庄助の額を打つ。
勃起したペニスを顔に押し付けたまま、唾液とカウパーでべたべたの幹に舌を這わせて、水を飲む猫のように舐めた。景虎の陰毛がサワサワと頬に触れて、そこからボディソープの匂いがした。
「ちょっといやらしすぎるな……」
庄助の前髪をかき分けて顔をまじまじと見ると、景虎はため息をついた。最初は、舐めるのなんか絶対に嫌だ、噛み切ってやる、などと嘯いていた生意気な唇が、今やペロペロと自らの性器を舐めているのだ。
「やらひくない……っ、ふ」
「ふふ、そそるけど下手くそだ。俺がイクまでやるのか? 朝になるぞ」
「お前ふぁ、文句ばっか、ぉあ……っ」
庄助の眼前のペニスを扱く。ぬちぬちとあまりにいやらしい音と光景に、庄助は生娘のように目を背けた。身体の位置を入れ替えるように、ソファに押し倒される。
「使わせろ、ケツ」
風呂場で散々にほぐされ、洗浄までされた穴に、景虎の指ごと冷たいローションが入り込んでくる。前回慣らされたとはいえ、痛みはある。けれど、庄助の身体は覚えていた。
あの何も考えられなくなるくらいの捕食みたいな激しいセックスを。本能で力の差を感じて、ひれ伏すときの恍惚を思い出すと、首の後ろに鳥肌が立った。
「んひ、へぅ……や、そんなん……っ!」
ぷちゅっ、と音を立てて肛門に鈴口が触れる。庄助は身体を震わせた。
「挿れるのこわい……イヤや……あっ」
それは本当の気持ちだった。太いものに侵入される痛みももちろんだが、それ以上に我が失われることは恐ろしかった。だが、それを伝えることで景虎の嗜虐心に火がつくことも庄助にはなんとなくわかった。
「ぐ……ぅ」
拒否は聞き入れられず案の定、景虎は何も言わず挿入してきた。拡がって押されて、声が出なくなる。景虎の目を盗み見る。いたく興奮したように開いた瞳孔がギラギラと光って、まるで夜を征くネコ科の獣みたいだ。
「あぅ、あっ……んん……うぁあ……!」
貫かれ浅い呼吸をしたまま、景虎の双肩、左右の虎を見上げる。相変わらず鮮やかで綺麗な模様だ。抱かれていると背中の般若が見えないのだということに、庄助は今更気づいた。
「庄助……」
仰向けの状態で太腿を掴んで、大きく開かせた足の間から、庄助の立ち気味の耳が赤く充血しているのが見える。恥ずかしいのか腕で隠している顔の下半分、荒く息をつく唇から覗く白い犬歯が色っぽかった。
タスマニアデビルの被毛は黒いが、耳の毛は薄く、また血流によって赤く見えるそうだ。喧嘩や交尾によって興奮すると、更に赤くなる。庄助のことを最初にタスマニアデビルと呼んだ人間は、そういった性質を知っていたのだろうか。あまりにもぴったりだった。
「ふ、はっあ……! んぎっ……」
くの字に曲げられた腹が苦しくて、庄助は口を大きく開けて息をした。時間をかけて拡げられた後ろの孔を、景虎の赤黒く脈打つペニスがゆっくりと出入りする。以前は後ろから犯されてばかりいたから見えなかった。恐ろしいほど太く凶悪なそれが自分を穿っているのを、どうしても意識してしまう。
「顔を上げてよく見てみろ」
「やぁっ……! あっ、んぐ」
「見ろ、庄助」
後ろ頭を掬うように持ち上げられた。庄助は、恐る恐る太腿の間からそこを見た。景虎はわざとゆっくり、ペニスを引き抜いてゆく。
「あ……」
てらてらと、腸液とローションにまみれて幹全体が粘っこく光る。根っこから液体が一筋垂れて、血管の凹凸に沿って流れてゆき、それがまた庄助の尻の穴に滴った。くびれたカリのあたりまで引き出して、全部抜けきらないうちにまたゆっくりと挿入してゆく。
「ひぃいっ……」
見えていると全然違う。ペニスに押し込まれそうになったローションが、孔の縁まで逃げて空気を含み、気泡となった部分がまた圧で弾ける。それがいやらしい音の正体だと知って、庄助は恥ずかしさに目を眇めた。
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