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【番外編】アルカロイド・センチメンタル・ブルース②
「……そういうの、持ってるんですね、国枝さん」
「たまに俺もね~。いたずらで見えにくいとこやられてることあるからさ。キスマークついてたらカッコ悪いでしょ、こんないい歳したおっさんが」
「ってよりも、バリバリの武闘派やのに、机に化粧品入れてることがびっくりしました」
「えー、それは偏見だよ。あ、こんなとこにも歯型ついてる。やらしいねェほんと」
「あっの……ク、くびっ。こしょばいですって……」
「んん~? もう一回ちゃんと塗るから、ちょっとくらい我慢しなって。お前らほんと……仲いいのはいいけど、いつまでも中学生のカップルみたいなことしてんなよ」
「ちがっ……ちゃいます! あいつが、勝手に」
「んーまあ、痕つけないで、って言ったら余計に燃えるタイプだろうねえ。かわいそうに」
控えめに笑う吐息が、庄助の頬の産毛をくすぐる。耳の先まで赤くして、庄助は国枝にされるがままになった。
「……気持ち悪くないんですか、俺らのこと」
「うん、気持ち悪くないよ」
景虎と自分はそういう関係だと直接伝えたことはないのに、国枝にはわかっているようであった。周りから見たらそんなにバレバレなんやろか。組の他の人間もわかっているのだろうかと庄助は不安になる。
それでも、国枝のその軽薄そうだけれど何気ない、ぽんと口をついて出たような平坦な『気持ち悪くない』の言葉にふっと胸が軽くなる。「ありがとうございます」と庄助は蚊の鳴くような声で漏らした。
「あの。カゲって……昔からあんな感じなんですか?」
「あんな感じって、どんな?」
「独占欲強いっていうか……女にもあんな、あんな感じで、その」
庄助はモゴモゴと口ごもった。
「知りたいんだ?」
「……対策としてですよ」
「そっかぁ。見てわかると思うんだけど、あいつイケメンだろ? シュッとしてて男らしくて、目と眉毛の間なんかこんな狭くて」
「男前なんは認めますけど……」
「性格はまあ、あの通りバカなんだけどさ。そのバカさっていうか世間ずれしてる感じも、ギャップあってくすぐるんだろうねえ。景虎は、女にモテるよ~」
「クソ、死ねあいつホンマァ……」
「15年以上一緒にいるけど、景虎が女に言い寄ってるところって見たことないな。言い寄られてるとこはたくさん見てきたけど。この前も、銀座のクラブのママさんが、あいつにマンション買ってあげたいって言ってて……」
「だっ……?! なにそれっ、くわしく……」
「待てって。はい、こっち終わったから、反対の首見せて」
と、反対側の化粧を直すため顎をすくい上げられたところで、事務所のドアが開いていることに気づいた。よく知った背の高い男が、戸口でぬぼーっと突っ立っている。
「か、カゲ……? いつから……」
「あっら~。おはよ」
景虎は朝から矢野組長の家に用事があると言ったので、庄助は一足先に事務所に車で送り届けてもらった。来るのが少し遅かったのは、コンビニにでも寄っていたのだろうか、手にビニール袋を提げている。
庄助は、誤解されてしまったかもしれないと、固まったまま目だけで景虎と国枝を交互に見た。顎を持ち上げられて、まるで今からキスでもするかのような体勢だ。
「国枝さん、どういうことですか?」
「なにが?」
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