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第二幕 1.ハッピーさんとワナビーくん⑧*

 ふと、目の下、頬骨の頂点に小さく音を立てて口づけられた。拒否の声を上げる間もなく、立て続けに何度も頬やまぶたやこめかみに、キスが降ってくる。 「ちょお、あかんっ……て」  鼻先で頬や耳をくすぐるようにしながら、景虎はどんどんと距離を詰める。  動物の愛情表現みたいな触れ方に身を捩っているうちに、いつの間にか、景虎の膝に庄助の腿が乗っている。  大事な話をしていたのに、このままでは流されてしまう。せっかく緊張しながら矢野と会食までしたのに。庄助は、仕切り直そうと口を開いた、が。 「んンっ……アホ、やめ、ぷ」  唇の間に忍び込んでくる景虎の舌は、ほんのりさっきの日本酒の味がした。当然みたいにキスされて、受け入れるのにも慣れてきてしまっている。  自分はノンケだ。にも関わらず、男同士で睦み合うことが日常化してきている。そのことへの危機感は、常に持っておきたい。  そうは思うものの、景虎との口づけは気持ちよくて温かくて、いつもいつも、あーもう今回はいいかな……という気分になってしまう。  馬鹿な頭が、さらに馬鹿になるのだ。 「可愛い」  しれっとそんなことを言う景虎に怒りが湧く。そのまま景虎の指先は、庄助のワイシャツの胴体をするするとまさぐり始めた。 「んひゃ……っ!?」 「スーツの庄助は新鮮だ」  耳の穴に直接、低い声が入ってくる。ワイシャツごしに、乳首のあたりを指先が優しく掠めて、庄助は過剰に跳ね上がった。 「あっ! おい、こんなとこでサカんなっ……っひぅ」  両方同時に引っかかれて、声が出そうになったので、庄助は思わず両手で口を塞いだ。  それにより、結果的に胸元の防御がガラ空きになってしまう。 「ん、んンっ、んふ」  景虎の長い指先が、カシュカシュと布を掻く音を立てる。いつも庄助の胎内に侵入しほぐしてゆく爪の先が、綺麗に切りそろえてある。   親指で両方、くにくにと捏ね回すような愛撫に、シャツの下に着ているインナーの布地が、ぽっちりと膨らんだ小さな乳首に押し上げられてゆく。 「声、我慢してるのか」 「ふっう、んん……やめろっ」 「舌出せ」  低い声で命令されると、腰が疼く。こんな言い方、ムカつくだけなのに。  それでも恐る恐る差し出した舌先を、景虎の唇が捉える。軽く吸い、甘噛みをし、自分のそれと絡ませる。 「ぅ、あっ……ん、ぅく」  脳みそ吸い出されてんのかってくらい、ドロドロんなる。  背筋をゆるく走る電撃が、きゅんきゅんと甘い耳鳴りを起こす。庄助は景虎のスーツの肩にしがみついた。衣服の上からでも、筋肉の膨らみがよくわかる。 「はぉっ、はひ、んんんっ」  舌を貪られながら胸を弄られる。布地の厚さの分だけ強めに弾かれると、くっついた唇の間から吐息が漏れた。 「庄助のよだれは美味いな、もっと……」 「あ、アホか! ひゃめ……へぅ」  唾液を啜るように味わわれるのが恥ずかしくて、庄助は顔を背けた。直に肌に触れようと、景虎の指がシャツをズボンから引き出しにかかった。  このままでは。  もっと気持ちいいところを触られて、言うことを聞かされて泣かされて、自分が景虎のものだということをわからせられてしまう。  男の意地にかけて、それだけは許してはいけない。

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