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第二幕 8.義侠心モンスター②

 というか、こんなことをしている場合ではないのかもしれない。庄助は思った。  向田には、ヒカリの仕事を手伝ってこいと言われたのであって、間違ってもハンバーガーを食べながら談笑しろとは言われていない。それに景虎にも、ヤクザの女と関わるなと言われたばかりだ。  しかし、こんな自分より年の若い今どきの女の子が、いくら若く見えるとはいえ四十過ぎのヤクザと付き合うものだろうか。何かの間違いではないだろうか。 「なあ、ヒカリちゃんて……向田さんの彼女?」 「そうだよ」  食い気味に答えたので、少し面食らった。 「ヒカリちゃんが二十一で、向田さんが……?」 「四十二歳」 「ひえ……生まれた時すでに相手が成人してんの、年の差えぐない?」 「あははっ! 足し算苦手だからあんまり考えたことない。ネンジくん、イラついてっと女殴るからさ~。びっくりしたよね、巻き込んでごめんなさい」  ヒカリが深く頭を下げたので、庄助は首を横に振った。 「いや、ヒカリちゃんは悪ないやん! 大丈夫なん? その、いつも、あんな……」 「大丈夫かはわからんけど、ネンジくん、そこまで悪い人じゃないよ。家と仕事探してくれた人だし。殴るのもさぁ、ビビるけど思ったより痛くないんだよね」  あっけらかんとそう言うが、どこか自分に言い聞かせているようにも見えるのが痛々しかった。 「……ヒカリちゃんはさ、なんでそんな頑張ってるん」 「ネンジくんは、運命の人なんだ」 「うんめいのひと……?」 「あたしさ、地元は房総半島の端っこで、家の周りにワカメしかない、みたいなとこなんだけどね。メイクの専門学校に通いたくて、こっち出てきたの」  ヒカリの話をまとめるとこうだ。  バイトをしながら学校に通っていたが、人間関係が上手くいかず、一年足らずで専門学校を退学した。親に怒られるのが嫌で連絡を絶ち、地元にも帰ることができず荒れていたところを、当時のバイト先の飲み屋で向田に出会ったらしい。  よくある話だと庄助は思った。

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