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第二幕 10.囚われの子猫と末法の姫君②

 歩きながらクレープを買って食べた。  ダーツバーでなく、ネットカフェに併設されているダーツコーナーで遊んだ。  UFOキャッチャーでなにも獲れなかったから、ガチャガチャを回した。  ポップコーンを食べながら、話題になっているアニメの実写化映画を観た。思ったよりつまらなかった、俳優が合ってなかった、と感想を言い合って、二人して笑った。  ヒカリが言ったように健全な、まるで中学生のデートだった。  東京に来て初めて、庄助は歳の近い異性と遊んだ。性的なことはなくても、十分に刺激的で楽しい経験だった。彼女も楽しそうにしていたように見えたのに。  すべてが演技だったのだろうかと思うと、庄助は途端にみじめな気持ちになった。  ヒカリと二人で映画館の入ったビルを出ると、雨が降ってきていた。  そろそろ解散にしようとの庄助の提案に、ヒカリは「タクシーを拾うから、駅を出たところのロータリーまで送ってほしい」と言った。それならと、言われたとおりに地下ロータリーに足を運んだ庄助は、待ち構えていたミニバンに拉致された。  運転手は知らない男だったが、助手席には向田が乗っていて、 「よぉ。休日出勤ご苦労さん。お前に手伝ってほしい仕事があってな。迎えに来たぜ」  と、庄助に下衆な笑みを向けたのだった。  もしかして嵌められたんかも。後部座席に押し込められたところでやっと、庄助は気付いたのだった。 「なんで俺がこんなこと……いやや~!」 「イヤじゃないよ、ケジメだよ。早坂さん、ヤクザなんでしょ。ほら、目閉じて」  全く自分の関係のない事のように、冷たく言い切るヒカリが恐ろしかった。  諦めて閉じた庄助の震える瞼に、ひんやりとした感触があった。グルーを塗ったつけまつ毛が、目の際に沿って貼り付けられてゆく。    向田に連れて行かれた寂れたビジネスホテルの一室で、顔を平手で殴られたり、腹や太腿を蹴られた。  が、庄助はひとまず暴力を受け入れて、勝手にヒカリと遊びに出たことを謝罪した。  大人しくされるがままになる庄助に向かって、向田は言った。 「なあ、男の娘ヘルスってわかるか? ゲイ専門店よりカジュアルだってんで、今流行ってんだろ? お前、けっこう可愛い顔してるし、紹介してやるよ。“俺のヒカリ”に手を出したケジメとして、しっかり稼いでもらうぜ」  手を出したなんて言いがかりだが、それは庄助にケチをつけるための詭弁で、特に怒っているわけではなさそうだと感じる口ぶりだった。  それでも、その言葉にまんざらでもない表情をしたヒカリの肩を抱いて、向田はニヤニヤと笑った。

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