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第二幕 12.プティ・シャノワールに愛の鞭を!⑦*

 景虎は泣いても全然許してくれなくて、昨日はあんなに優しかったのに、別人みたいに乱暴だ。まだ、怒っているのだろう。 「う……ひゅ、あ゙……」  尻の下が冷たい。大量に何かを漏らしてしまったことに気づいたが、庄助はもう疲れ果てて何も言えずにぐすぐすと鼻をすすった。 「鼻血出てるぞ」  向田に殴られた傷が、興奮しすぎて開いたのかもしれない。鏡を見ると、赤い血が唇のあたりまで垂れていた。舐めると鉄錆の味がする。叫びすぎて喉が渇いていた。  顔を拭かれて、ティッシュを丸めたものを鼻に詰められた。そのまま、景虎は庄助の頬を両手で挟むと口づけた。  鼻栓をしているのに、ムードもへったくれもないが、庄助は嬉しかった。景虎とのそれは脳が溶けるほど気持ちいいし、キスをしてくれるということは許してもらえた、そんな気がするからだ。  血の味の残る舌を味わいながら、景虎は庄助の脚の拘束を解いてゆく。はむはむと必死に、こちらを求めてくる庄助の唇が愛おしかった。  当の庄助は、一番先に手錠を外してほしかった。首に腕を回して、強く抱きついて口づけたかったのに。 「かげ……ぇ」  手の代わりに、馬鹿みたいに蕩けた顔を景虎の肩に擦りつけた。足が痺れて、力が入らない。尻尾と手錠はつけたままで、庄助はベッドにうつ伏せに放り投げられた。 「んぎゅ……」  身体が怠い。ひんやりとしたシーツに熱い肌が触れるのが気持ちよかった。殴られた痛みをすっかり忘れてしまうくらいに、全身がくまなく重い。  このまま、ベッドで寝てしまいたい。アホみたいな格好やけど、シャワー浴びてないし精液乾いてカピカピやし、鼻にも尻にもなんか入ってるけど、もう全部どうでもいい。しんどい。  目を閉じると、睡魔がすぐに手を取りに来る。庄助がそれに身を委ねると、身体が羽根のように軽くなって、すぐに心地よい夢の中に連れてゆかれる。  ぺしゃんこにうつ伏せた腿のあたりのスプリングがギシッと軋んだと思うと、油断して弛緩した尻から、一気に尻尾が引き抜かれた。 「……ぃひゃうっ!」  半分微睡みの中にあった意識のせいで、嬌声が追いつかない。中の肉に馴染んだ球は、壁を刮げるように引っ掻きながら出ていった。  名残惜しそうにローションの糸を引いたそれを投げ捨てると、景虎はツナギのファスナーを下ろし、パンツの中から膨張したペニスを取り出した。 「ぅ、…………て」  フリルのついた黒い下着を脱がせていると、庄助が小さく呟いた。下まつげのマスカラが涙で流れて、黒く目尻を汚している。 「もうゆるして……カゲ……」  同情を誘う涙声だ。景虎は思わず、少しかわいそうになって、庄助の頬やこめかみに何度も口づけた。愛おしい庄助の汗の匂いが、鼻腔をくすぐる。  しかしふと思い直す。  今は痛めつけられてしおらしくしているが、数日経てばまた「かっこいいヤクザの仕事がやりたい」と、バカの一つ覚えのように言い始めるに違いない。  そんなものはないといくら言っても聞きはしない。明日になればきっと、人非人の烙印であるこの虎と般若の刺青に、キラキラとした憧れの目を向けてくるはずだ。  庄助自身には悪気はないが、景虎にとっては心と身体をかき乱す悪魔だ。生意気で、魅惑的な悪魔だ。

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