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第二幕【エピローグ】なるかみ、とよみて①
三階に降りてすぐ正面の、我らが隠れ蓑、ユニバーサルインテリアは本日、休業日であるにも関わらず電気がついている。
扉を開けると、冷房の空調に乗って食べ物の匂いが漂ってきた。
「景虎遅いなお前お前~! 酒足りてないぞ」
ナカバヤシが、スキンヘッドを真っ赤に染めて二人を出迎えた。
もうだいぶ飲んでいるようで、頼んでもいないのに飲み物の袋を開けて中身を皆に配り始めた。
事務所の中ではささやかな立食パーティーが始まっており、ユニバーサルインテリアの組員数名が、真ん中に寄せた机の上に酒やピザなどを置いて談笑していた。
「おかえり~。もう始まってるよ。ウイスキー買ってきてくれた?」
缶ビールを片手に持った国枝が、壁にもたれてへらっと笑った。
「買ってます。響でいいんですよね」
「そうそう、ありがと。矢野さんも、もうすぐ着くって」
織原組と正式な盃を交わす前に、とりあえず庄助の歓迎パーティーでもしようか。やってなかったでしょ。
あの地獄のような一件が終わった後日、出勤してきた二人に、随分と機嫌の良さそうな国枝が提案した。
その時国枝は、四つん這いになった向田の背の上に腰掛けて、スマホのパズルゲームのアプリをやっていて、そのあまりの光景に、庄助はしばらく開いた口がふさがらなかった。
「矢野さんとは顔合わせしたけどさ、それとはまた別で……会社のみんなで、もちょっとラフなやつを。どうかな? めんどくさい?」
国枝の尻の下で震える、パンツ一丁の男の姿が気になって、庄助は言われたことがなかなか頭に入ってこなかった。
向田に直接、なんでこんなことになってるんですか? ヒカリちゃんは無事なんですか? と聞きたかったが、あまりにナチュラルに人間椅子と化している。
隣に立つ景虎も、特に何もツッコミを入れないのが、さらに恐ろしかった。
「めっ、めんどくさく、ないです! 楽しそうです」
「そ。なに食べたい? お寿司? 焼肉?」
よく見ると、俯く向田の口にはSMに使うようなギャグボールが咬まされている。
……何かのプレイなのだろうか。ますます何も聞けなくなった。
混乱した庄助は、みんなでピザパーティーしたいです! と答えてしまい、なぜか事務所でワイワイとやろうという運びになった。
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