163 / 168

【番外編】スピカの後味⑤*

 庄助の髪は麦の穂のようだと、景虎はいつも思う。  汗を纏ってたわむ、色の抜けた黄金。生まれ持ってのそれとは違う、少しまだらで赤みの残った、人工の金色が頭を垂れる。  何度愛を囁いても、まったく自分のものにならない、気高い一番星の色だ。  どこにいてもすぐに見つけられる光のような、少なくとも景虎にとって庄助はそういう存在だった。  ベッドに座った庄助の胸元を、窓から届く外の光が青く照らす。  柔らかいバスローブの前を解くと、下着を履いていない、生まれたままの裸体があらわれる。庄助は一瞬たじろいで、膝頭を二つ擦り合わせるようにした。 「ちゃうからな」 「なにが」 「泊まるって知らんかったから。パンツ一枚しかなかったから。汗かいたのを洗って干してんねん。だから、履いてへんだけやで」  誰も何も言っていないのに。本当にキャンキャンよく回る口だと景虎は思う。 「大丈夫だ、やる気満々だなんて思ってない」 「思っとるやんけ、ひぁっ……」  身を屈めた景虎が額に唇を軽くくっつけると、素っ頓狂な声が出た。頬や鼻のてっぺんに、啄むみたいに優しいキスが降ってくる。乱暴な景虎に似合わない仕草に、つい笑いがこみ上げる。 「んふっ……、お前な、そういう……ふふっ」 「なんだ」 「はっ……ん」  景虎のおざなりな返事に、熱がこもっていて興奮する。耳の中に鼻先を埋められて鳥肌が立つ。首筋に舌の先を押し付け、そのまま顎の先まで舐め上げる。そっと歯を立てると、びくびくと庄助の腰が跳ねた。 「あ……はぁっ、……ぅンっ」  息継ぎのために薄く開けた唇に、景虎は自分のそれを重ねた。小粒の歯が行儀よく並ぶのを舌でなぞり、犬歯の裏をくすぐる。こまめに酸素を求める鼻息が、やっぱり小動物みたいだと景虎は思った。  口の中を蹂躙しながらベッドに押し倒すと、庄助は縋るように抱きついてくる。お互い同じウイスキーを飲んで、同じ匂いになった口の中は熱い。舌に残るキャラメルのような甘苦さが、唾液で蕩けて混じってゆく。 「ん、ぅ……はぁ、カゲ、ぇ……」  景虎の太い首に腕を巻き付けては、はむはむと唇を動かす。そうやって余裕なく探ってくる庄助の舌に自分の舌を巻き付け応える。バスローブの間から見える庄助のペニスは、もうすでにゆるく勃ちあがっていた。  外の光に、庄助の素肌の輪郭が照らされる。蒼白い光を纏った肌が産毛ごと、触れるたびにぴくんと跳ねる。  景虎に比べると、庄助の身体は薄くて細い。決して平均より筋肉がないわけではないけれど、身体のラインにどことなく、成長途中のような不完全さがある。  その幼い輪郭から漏れる声は、歪なほどに甘ったるく艷やかで、とても不健全だ。  思わずキレイだ、と零すと、そんなわけあるかと怒ったように返って来て、景虎は苦笑してしまった。  バスローブの合わせを割って、景虎の指が肌を静かに撫でてゆく。申し訳程度の胸の脂肪を集めては、乳房みたいに揉み込まれると、庄助はまるで本当に女にされている気分になってくる。 「ンっ、なぁ……あんまりそこ、触んな」 「どうしてだ?」  乳首に近い部分の皮膚をぎゅっと集めて揉み込まれ、庄助は身を硬くした。 「マトモに服、着られんようになる……」 「ふぅん……?」  まだ触れてもいないのにツンと立ち上がるそこに、景虎は指先を埋めた。持ち上げていた皮膚の分、深く沈み込む。景虎がその感触を楽しむよりも先に、庄助の身体がびくんと大げさに反応した。 「やぁうっ……!」  甘えたような声が出て、しまったと思った。  恐る恐る見つめた景虎の瞳は、もっと苛んでみたいという嗜虐に濡れて光っていた。  その獣のような、いかにも今からお前を食い荒らすという目で見下ろされると、言葉が出なくなる。怖いのに、両手を開いてその牙に身体を明け渡したくなるような、その気持ちに説明がつかない。

ともだちにシェアしよう!