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【番外編】スピカの後味⑥*

「服が着られないなら、外に出られないな。そうしたら、庄助は一生俺だけのものだ」  さも嬉しそうに、恐ろしいことを言う。これは景虎なりのユーモアなのか、それとも本気なのか。庄助には判断がつかなかった。  乳暈(にゅううん)の中に埋め込むように指先で先端を潰されると、くすぐったいような痒いような感覚が、腹の奥にムズムズと突き刺さった。 「ん、ひ……! マジであかんて、やめろって……ひゃ、あっ、あ……!」  小さな粒をくいくいと引っ張る景虎の指を見ているだけで、あられもない声が喉から上がってくる。 「好きだろ、乳首。いっぱい触ってやる。気持ちよくしてほしいんだよな?」  責めるようにピンピンと弾かれ、気持ちいい顔をしているのを見られる。ものすごく恥ずかしかったが、景虎の言うとおり、乳首へのもどかしい刺激が、庄助は好きだった。見抜かれているのが嫌で、腕で顔を隠す。 「ぜんぜん好きとちゃうわ……!」 「ほんとか? じゃあ好きになるようにしてやろうか」 「む、ア……っ! ふあっ、あぅ」  からかうみたいにそう言ってから、景虎の愛撫はいたわるように優しくなった。  吐息を胸の先端に湿らせるように吐きつけて、ゆったりと唇の中に巻き込む。ぴたりと隙間なく口内に入れて、乳首を舌でこそげるように舐めると、ひぃん……と小さい泣き声が聞こえた。  庄助は膝頭を擦り合わせて、むずかるみたいにくんくんと鼻を鳴らしている。ものも言わず、たっぷりと時間をかけて唾液を塗り込んでいく。舌を尖らせて何度も何度も往復させると、庄助はついに音を上げて訴えはじめた。 「んは、く……っ、もう、やっ……カゲ、かげっ」 「どうした」 「やっあ……! ひっぱんな、あかん、もう……やめっ、ンひぅっ……」  両方とも濡れて尖りきった乳首を、引っ張り出して指の腹で押しつぶすと、庄助の腹がうねった。これ以上触られるとおかしくなりそうで、庄助は景虎の胸をぎゅうぎゅうと力なく押し返した。 「やめるか? お前の嫌なことはしない」 「く、クソが……! あ……ぅ、んやっ、そこばっか、ああっ」 「どうしてほしいんだ」  熱い耳朶を喰まれ、指の背で擦るように執拗に乳首を転がされる。淫靡な質問が侵入してきた耳の穴から、脳みそが次々に蕩けて流れそうだった。 「教えてくれ。何をしたら気持ちよくて、何が本当に嫌なのか。好きだから……愛しいから。庄助が、すごく」  一つ一つ言葉を丁寧に紡ぐように、景虎は言った。心臓がはやい、ときめきが洪水みたいに押し寄せてきて、このままでは溺れてしまう。  庄助はぱくぱくと口で呼吸をして、まるで藁でも掴むように、景虎の胸に自分の顔を押し付けた。 「ぅ、言いたくない……っぜったい」  景虎のバスローブの隙間、裸の胸から覗く美しい刺青。いつもと違うボディソープの匂いに、なぜかほんの少し切なくなる。  ほんとうは、もっといやらしいことをしてほしいし、興奮している景虎を見たい。けれどそんなこと、言えるはずなかった。 「じゃあ、嫌じゃないかどうかだけ、教えてくれ。……これは?」  景虎はその大きな身体を、守るように閉じた膝の間に割り込ませ、濡れながら勃ち上がるペニスを握り込む。 「ひ、うっ……」  皮を引き下げるようにして少し擦ると、びくびくと一気に血が集まってきた。 「嫌か? ここ、触られるの」 「……ぅ、や……っじゃない、けど」 「けど?」 「わ、かってるくせに……っ! お前、ほんま覚えとけ、ぉっ……んんっ」  ペニスを愛撫しながら、ことさら敏感になった乳首をしつこく舌で嬲る。シーツの上で身を捩って、庄助は声にならない声を上げた。 「う、ぎゅ……それ、一緒にやるの……むりぃ」  景虎の長い指が、庄助の尿道から溢れてくる透明な粘液に濡れてゆく。上下させる指の輪と我慢汁に外気が混じって、にゅぷにゅぷと淫猥な音を立てた。 「やああっ! あかん、きもちい……から、やめろ……って……!」 「口に出して言ってくれ、どこが気持ちいいんだ?」 「はあっ、あ……っ、ちんこ……きもちいい……」 「それだけか?」 「……く、マジで死ねボケ……っ! ……ち、乳首っ、い゙……いっ、乳首舐められるのすき、きもちいっ……カゲぇ、もうっ……で、出る、出る……」  二度、三度と陰嚢がぐっと引き上げられるように小さく動いて、庄助は容易く射精した。  とぷとぷと腹の上に溢れた白い精が、エアコンで冷えた肌に熱い。

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