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第三幕 二、レンタル天使と愉快な仲間たち①
「ぁ、国枝さん……ダメです、やめてください」
庄助は喘ぐように息を吐き出した。
スウェットのウエストゴムに、国枝の細い指が絡む。そのままつるりと引き下ろされて、下着が丸出しになってしまった。
「庄助が悪いんでしょ。こんな、噛み痕いっぱいつけて……そんなんでできる仕事なんか、これしかないよね? ほら、ズボン脱いで」
ロッカーを背に追い詰められて逃げ場をなくした庄助は、熱いため息を漏らした。顔が近い。嗅ぎ慣れた香水とタバコの匂いがする。
「でもっ……恥ずかしいです、こんなん……」
「そう? 可愛いよ」
耳元で囁かれてドキドキした。国枝は細身だが、武闘派なだけあって触れると筋肉がしっかりついている。押し返したサマースーツの下の二の腕は、しなやかな若竹のように弾力があって硬かった。
「抵抗したらうまく入らないでしょ。足あげて……そうそう」
「やぁっ、無理です……! ゆるしてください……」
「だーめ。あーほら、入っちゃったね……? ふふ、後ろちゃんとしめて……」
「あぅう、ひどい……っ、あつい……!」
熱くて熱くて死ぬんじゃないかと、庄助は溺れた人が水面に顔を出すように息を継いだ。喉元まで蒸すような熱気に喘いでいると、うんざりした声が国枝の肩越しに聞こえた。
「ちょお、二人とも何アホなことやっとんです。もうちょっとしたら出番やけ、バミリの位置ちゃんと把握しいや庄助」
同じ事務所に詰めるヤクザのザイゼンが、大きな鏡の前のパイプ椅子に座って足を組んでいる。
普段は色付きサングラスに撫でつけたオールバックが、ティピカルなヤクザとしての威光を放っている彼だが、今日はメガネを外し前髪を下ろしている。襟ぐりの広い黒と白のボーダーシャツを着たザイゼンは、まるで教育番組の歌のお兄さんのように清潔で若々しい。
ロッカーの前に立って着替えをしている庄助は、背中のファスナーを国枝に閉められながら、ぜえはあと犬のように舌を出して息をした。
「待ってくださいザイゼンさん、これめっちゃあつい! こんなんで動き回ったら死にますて」
強めに空調の効いた控え室の中でさえ、額から背中から汗が噴き出してくる。バンダナのように巻いたタオルは、もうじっとりと濡れている。
国枝によって、クリーム色の毛の生えた着ぐるみの身体を着用させられた庄助の頬は、すでにうっすらと赤く染まり始めていた。
「キスマークだらけにしてくるからでしょうよ。そんなんで衣装着られないでしょ、家族連れも通るんだよ? 歓迎会で気が緩んじゃった? 仕事ナメてる?」
「うぅ……ごめんなさい……」
国枝に額をぎゅっと人差し指で押されて、ぐうの音も出なかった。
なんで俺が謝らなあかんねん、これは景虎のせいですと大きな声で言いたかったが、おそらくそんなことは国枝にとってどうでもいい。
口答えしたって、国枝に指の骨を楽しげにへし折られてしまうだけ損だ。黙っている方が賢い。
そう思ってしまうほどに、景虎に夜通し貪られ続けた身体も精神も怠かった。本当は、指一本動かすのも億劫だ。今日一日の仕事が早く終わって欲しかった。
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