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第三幕 二、レンタル天使と愉快な仲間たち②

 本日、株式会社ユニバーサルインテリアは企業のPRイベントに出展する。あくまで表向きは普通のレンタル業者なので、こういったイベントにもたまに出なくてはいけない。  カップルや家族連れも多い渋谷の商業施設の一角、ステージつきのブースを他の企業らと合同で借りている。  PRのステージには、会社のイメージキャラクターであるカワウソの『ワウちゃん』の着ぐるみと、司会進行役が出演する。彼らが舞台上でダンスや茶番で盛り上げている間に、アシスタントが粗品付きリーフレットの配布やアプリのダウンロードの誘致などを行う。実益に繋がる販促、及びクリーンな企業イメージの植え付けが目的だ。  本当であれば、ザイゼンの役を庄助がやるはずだったらしい。だが昨日景虎に身体中に痕をつけられてしまい、衣装からキスマークが丸見えだということで、急遽配役を交代することになった。 「つーかこういうのこそ、景虎にやらしたらええんちゃうんかのぉ。舞台映えするじゃろ、なぁエダさんよ」  ザイゼンはしかめっ面で、薄い台本をパラパラとめくっている。爽やかな風貌に、コテコテの広島弁というのがどうにも似合わなさすぎて、庄助は吹き出しそうになった。 「景虎はダメだよ、無表情だし口下手だし。何よりちょっと美形すぎて、すぐSNSにアップされちゃうもん。そういうのはほら、裏稼業的に困るでしょ」  俺たちが美形じゃないってことですか!? と、庄助とザイゼンは口を揃えたが、国枝は当然のようにスルーした。 「それにあいつは今日は別件だしね。横浜で中華食って、そのあと関内の高級クラブで会合」  ひらひらと手を振る国枝に、庄助は目の色を変えて食いついた。 「は!? 聞いてないです!」 「そうなの? 矢野さんの護衛だよ。昨日矢野さん、嬉しそうに言ってたじゃん。息子とご飯食べに行くの久々だ~って。聞いてなかったの?」  全く聞いていなかった。昨日は久しぶりに静流に会ってびっくりしてそれどころではなかったし、今朝だって景虎は何も言わずに先に家を出ていた。  あれだけめちゃくちゃしておいて、どうせまたしれっと景虎は帰って来るのだ。ちょっといいアイスやデザートを買ってきて、申し訳無さそうな顔をして。俺はそんなんでは許さんからな。  庄助は景虎のしょんぼりした顔を想像しては、一人で鼻息を荒くした。 「景虎は組長のボディガード。庄助はカワウソ。ね? これも立派な仕事だよ」  国枝は、バランスボールほどありそうな着ぐるみの頭を庄助に押し付けた。カワウソの『ワウちゃん』の顔面が、小さな黒い目で虚ろを見ている。 「ひどい! 俺もクラブ行きたいです!」 「はは。景虎連れてったら、女の子らの反応全然ちゃうど」  国枝もザイゼンも当たり前だが他人事だ。  護衛だろうがなんだろうが、人のことを好きだとか言って犯しておいて、その次の日に女と酒を飲むなんて。そんなことは許されない。マジでふざけんな。庄助は奥歯が砕けるほど悔しかった。  いくら自分が下っ端だからといって、不平等かつ不義理だと思うのだ。そう、俺は不義理が許せないのだ。なぜなら俺は一本筋の通った義侠心溢れる男だから。決して嫉妬とかそんな下らない気持ちではない。なんなんあいつ、むっかつく。ちんこちぎれ飛べ。  庄助はぐるぐると言い訳と苛立ちを頭の中でこね回した。考えるのが苦手なので、いっそう脳みその温度が上がって沸騰しそうになっていると、控え室のドアが無遠慮に開いた。

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