187 / 381

第三幕 二、レンタル天使と愉快な仲間たち⑥

*  *  * ■大阪の経済大学を自主退学後、一念発起して芸術の道へ。世界大会で優勝する実力とセンスを発揮し、ボディアーティストとして成功しているTANN氏(二十六歳)。 恋愛リアリティ番組にて、その甘いマスクと飾らない性格で一躍有名になった彼に話を聞いた。 ――TANNさんがこの道を志したきっかけというのは TANN もともと絵を描いたり、粘土こねたりするの好きだったんですよね。なんやろ、言葉での自己表現が下手な子供やったというか。もちろん漫画とかも好きで。弟の部屋にある漫画借りてきて模写したり、友達にゲームに出てくるモンスター描いてってせがまれたりとか。  あとは小さい頃に、ワシントンとかバルセロナとか、そのへんの美術館でいろんな芸術作品を観たのも大きかったかも。ボクは抽象画が結構好きで……見た目はシンプルに見えても、正体のわからないものに惹かれます。 ――数ある芸術の中でも、ボディアートを選ばれたのはどうして? TANN タトゥーはやりたかったんで決めてました、ずっと。  でも決めてたのはそれだけで、作りたいものとか方向性は固まってなかったんですよ。とにかく東京に早く出て来たくて。  バイトしながら勉強して、ネットで宣伝しつつ……どうにかなるだろって。いやほんと、今思ったらナメてんなって感じなんですけど(笑)  東京に出てくる前に地元の友達にピアッシングさせてもらったんです。それがすごい刺激的な経験で。イマジネーションがどんどん膨らみました。  ああボクのアートってのは、タトゥーに限らず人の身体を美しくして、人と繋がることなんやなって。それがわかったんです。 ――なるほど。鮮烈な経験だったんですね。ボディアートで繋がるというのは? TANN なんやろ、基本的に寂しがりなんですよ、ボク。個人のアイデンティティが希薄っていうか、誰かと繋がってないと怖くなるんです。だいぶ、あかんたれで……。  ピアスとか刺青、いわゆる大きな括りでの人体改造って、除去しても傷跡は残るじゃないですか。それいいなって思って。頻繁に連絡取れなくても、会えなくても、身体を見たらボクのこと思い出してくれるってすごいアツいなって。ずっと一緒にいられるでしょ。 (中略) ――今後やっていきたいボディアートの表現ってありますか? TANN  そうですね、今はフェイスとボディペインティングによるブライダルの企画を考えていて。男女だけでなく、あらゆるセクシュアリティの人の結婚や家族・絆のあり方を、アートというカタチで提案したいなと。 ――最後に、ファンの方にメッセージをお願いします。  番組を観てファンになったんですけど、それだけでカウンセリングに伺うのはダメですか? ってDMをよくいただくのですが、そんなことはないです。ボクのアートに触れたいと思ってくれる気持ちが嬉しいです。なので、気軽に来てください。  うちのスタジオ、カウンセリングの時間が長いっていつも言われるんですけど(笑)お客さんに寄り添って、二人三脚で作品を作り上げて行きたいって思っていますので。後悔のないようにたくさんお話しましょう。 *  *  *  ネット記事の写真の中、ろくろを回すような手つきをしている長髪の優男は、紛れもなく静流だった。  ヒカリの桜貝のような爪が、トンとスマホの液晶をタップした音で、庄助は正気に戻った。 「……知らんかった」  画面から顔を上げても、庄助は口をぱかっと開けたまま、阿呆のような顔をしていた。  一緒に行かないかと恐る恐るヒカリに尋ねたが、「イケメンの過剰摂取は危険、生まれてきてごめんという気持ちになるから行かない」と、よくわからない理由で断られてしまった。

ともだちにシェアしよう!