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第三幕 八、漢の決意はドレスで飾る③
前に一緒に仕事をしていたときよりもずいぶん痩せた浅黒い頬に、向田は悪党らしい下衆な笑みを浮かべた。
「今はネットで自分の私生活や性生活を切り売りする時代だろ。インフルエンサーの珍しい風俗レポなんて、バカどもの低俗な好奇心にうってつけじゃねえか! お触りありの男の娘キャバってとこに間口の広さと、マジモンのニッチさも兼ね備えてんだよ。わかるか? ガキンチョがよ」
「知るか! ほんなら向田さんが自分で女装やったらええやないすか~!」
庄助は、またしても女装することになってしまった自分を憂いた。
元の髪の色に合わせた、肩下までのストレートロングの金髪。シンプルな白いタイトなミニドレスの胸に、ふくらみを持たせるようにギャザーが入っている。パールとビジューをあしらったヒールを履いて、化粧をした顔周りには大きめのフープのシルバーイヤリング。大人可愛いギャルの様相を呈している。
庄助はギャルが好きだ。そしてそんな自分の姿を姿見で見て、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまったのが嫌で仕方なかった。
肉付きは完全に男なのに、体のラインと骨格が子供っぽいからか、ゴツさをあまり感じさせない。
それとも景虎に掘られまくってるから、女みたいになってきてもーてるんやろか。庄助は軽くショックを受けていた。
「作戦はわかってるな? 川濱のホモ野郎をたぶらかして、ヤクの入手経路を紹介してもらう」
「それはわかりましたけど……接客はあんま自信ないです、俺ゲイやないんで」
庄助が拗ねたように投げやりに呟くと、向田はウイッグの上から庄助の頭頂部をげんこつでごちんと叩いた。
「ぴぎゃ! なにすんねんDV男!」
「お前な庄助……この仕事ナメんじゃねえぞ。俺ァ確かにこんな商売しかできねえクズだが、それでもキャストにはちゃんと接客を教えてきたつもりだ。ちゃんとやって夢中にさせて、さっさと吐かせて終わらせろ。それが一番の近道だ」
いつになく真剣な表情の向田に、庄助はたじろいだ。
「んなまどろっこしい真似せんでも、殴ってゲロさせたらええのに~……」
「殴ってウタわせる? 素人のお前が? 相手がうっかり死んじまっても、最後まで組に迷惑かけずに処理できるのか?」
「うう……それは」
言葉に詰まる庄助に、向田は加熱式タバコの水蒸気を吹きかけた。
「つーか遠藤はなんて言ってんだ? 大事な弟分のケツを他人に揉まれたくなかったら、それこそテメェで出てくりゃいいのによ」
「……そのことなんすけど」
けほ、と嫌そうな咳をひとつすると庄助は向田の目をじっと見た。
「んん?」
「このヤマばっかりは俺、ひとりでがんばりたいんです」
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