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第三幕 十、ショコラ&ロゼスパークリング②
「だめ、お願い……っ。タニガワさん。ウチ、タニガワさんのことちゃんと好きになりたいから……だからぁ」
張り裂けてボロ切れのようになったパンストの脚を、タニガワの大木のような胴に絡ませ、スリスリと動かした。
「チューはもっと仲良くなってから、ね?」
誘うように耳元で媚びると、タニガワは案の定目尻を下げた。
「仲良く? しょこらちゃんと……? いいのぉ?」
「もちろん! てかラインやってる? シグナルでもワイヤーでも、もちろんテレグラムでもいいんだけどっ」
庄助は、国枝から支給されたトバシのスマホでタニガワとラインを交換した。プライベートな連絡先だという。
ずいぶんあっけないが見事、任務完了である。
庄助はもう限界だった。
タニガワは酔っていて、今にも口を滑らせそうではある。しかしこのままでは、もっといやらしいことをされてしまう。そして、これ以上のことをされたらきっと、零れ出た堪忍袋の中身は怒りとなって顕現する。
すなわちタニガワをブランデーの瓶で、血が出るまでしばき回す。そうなったら終わったはずの任務が失敗になってしまう。
それを避けるためにも、とりあえず離席しなくてはいけない。いくつか有益そうな情報は聞いたし、忘れてしまわないうちにまとめて国枝に報告したいところだった。
「はあはあ……しょこらちゃん……っ」
「ちょっ、いやぁん……あっ、待って、待てって! そんな……ひわぁっ!」
強引に押し倒され、パンツの紐を解かれて破れたパンストの間から引きずり出されてしまった。守るもののなくなった股間を、ズボン越しのタニガワの勃起した男根がグリグリと押し上げてきた。
「我慢できない……しょこらちゃん好きだ!」
「ふぎゃっ……! やめっ……やめろ! パンツ返せ!」
ソファの上で大きな身体に潰されてしまった。酔いも手伝って、とうとうしょこらちゃんになりきれなくなった庄助は叫んだ。触れられすぎてファンデーションもへったくれもない頬をべろべろと舐められて、全身に鳥肌が立つ。黒服を呼ぼうと喉を反らせた瞬間、一層タニガワの体重が増えたように重くなった。
「んふ、いいにおい……しょこらちゃんの、ぱんつ……ぱん、つ」
「たっ……タニガワさん……?」
タニガワは庄助の胸の間に頬を擦り付けるようにして、幸せそうに眠っている。薄いピンク色の紐パンを左手に握りしめたまま、ぐうぐうといびきをかいて意識を失った。
庄助はタニガワの腹の下で、向田の作戦の効果を実感していた。
睡眠薬は悪用を防ぐため、水に溶けると変色するものがある。が、それらはほんの一部で、色の変わらないものの方が多い。そうした薬剤は一般的に水に溶けにくいので、飲み物に仕込むと沈殿してバレやすい……らしい。
そこで今回使ったのが、一度薬を溶かした水を凍らせた向田オーナー特製のアイス大作戦だ。
上から度数の高い酒をかけると少しずつ眠剤が飲料に溶け出す仕組みで、これだとその都度、沈殿物ごと飲んでしまうから気づきかれにくいという寸法らしい。向田が今までどれだけ悪事をやってきたか、この作戦だけで何となくわかってしまうというものだ。
身体が大きいからかタニガワはすぐには眠ってくれず、てっきり庄助は向田が嫌がらせで普通の氷を渡してきたのかと思ったが、そんなことはなかった。
頬をそこそこ強い力でペチペチと叩いても起きない。よく眠っているようだ。庄助はタニガワの腹とソファの間から這い出て、小さくガッツポーズをした。
《※本作品はフィクションです。実際に睡眠薬及び睡眠導入薬を、許可なく他人に飲ませる行為は傷害罪にあたる場合がございます。絶対に真似をしないでください》
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