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第三幕 十一、ルックバック・ウィズ・ユー①
昼を過ぎる頃、庄助は静流にタクシーで家まで送ってもらった。
「ほんまにごめんな。でも、織原の事務所を紹介したんはオレなんやから、何かあったら責任取るから言うて」
言葉少なになっていた庄助に、静流は真剣に念を押してから、自分も出勤していった。
口数が少なかったのは、怒っているからではない。恥ずかしいからだった。静流には景虎とのことを知られたくなかったのに。
庄助は目を合わせずにお礼を言うと、タクシーから降りた。
本当は事務所に寄って、昨日のことを直接国枝に報告しようとしたが、今日は矢野の退院準備で不在だと言っていたのを思い出した。なかなかタイミングが悪い。
向田の店に放置したスマホや荷物も取りに行きたかったが、「いちゃいちゃクラブ☆あるてみす」は二十時開店だ。今行ってもきっと誰もいないだろう。
今日も刺すような熱線を伴った日差しが、容赦なく肌や髪や目を射抜いてくる。
庄助はいつも通り集合ポストを覗いてから、目玉焼きが焼けそうなほど熱された、縞鋼板 の古びた外階段を上る。
奥から二番目、褪せた色のドアの前に立つ。足元に置かれた造りものの小さなユーカリの鉢は、会社で使わなくなったものを譲ってもらったものだ。その鉢と下皿の間にスペアキーがある。鍵をなくしたり忘れた時のためにここに置いておこうと、庄助と景虎二人で決めたものだ。
それを使って鍵を開けると、ひやりとした空気が頬に触れた。エアコンがついているということは、景虎が居るのだろうか。
「カゲ? おるん? ただいま」
玄関に、静流に借りたサイズの合わないサンダルを脱ぎ散らかしながら、庄助は言った。これまた借り物のカジュアルパンツの足を持ち上げて、つま先についた少量の砂埃をパタパタと手で払う。下を向いた頭から、首筋までつうっと汗が滑り落ちた。
景虎の家は、当然ながら景虎の匂いが満ちている。静流の家とは大違いの手狭なアパートだが、西陽が強くはあるものの陽当たりはまあまあで庄助は気に入っている。
嗅ぎ慣れた家の匂いは落ち着く。畳まれた状態のソファベッドから、大きな身体がはみ出しているのが見える。肩から足先までタオルケットを被って、景虎は眠っていた。
手を洗ってから、ばたばたと荷物を置く。庄助の生活音はいちいち大きいが、それでも起きない。
「カゲ~。帰ったで」
傍らにぺたりと座って、景虎の寝顔を覗き込んだ。もとはと言えば景虎がキスマークをつけたせいで、静流と気まずい感じになったのだ。一発殴ったろかと思ったが、景虎の肌がいつもより蒼白く感じて、死んでいるのかと一瞬どきりとした。
よくよく見ると、厚い胸は規則的に上下している。庄助はホッとした。
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