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第三幕 十三、おんもらきの巣①

 例えば、この人には敵わないってわからせられちゃうとさ。反抗する気にならないでしょ?  人を傷つけるなら、最低でもその状態にしないと。  具体的に? う~ん、手足を砕いて二度と使えなくするとかね。色々やり方はあるよ、答えは一つじゃない。考えて、工夫しなきゃ。  じゃないと、復讐されてひどい目に合うよ。何って……ひどい目はひどい目だよ。死ぬくらいならいいけどねえ。  庄助だって、手負いの獣が恐ろしいことくらいはわかるでしょ?  前に軽く聞いて流していた国枝のアドバイスを、こんな時に思い出す。身を持って知るとはこのことかと、庄助は、髪やまつ毛に重たく絡む水の中で後悔していた。  耳の中に水が入ってきて、とぷとぷと音を立てる。意図しなくても口や鼻から空気が漏れて、泡になって身体から出てゆく。脳が酸素を欲して悲鳴をあげていた。 「あ゙、かはっ……や、め」  引き上げられて、勢いよく息をした鼻と喉に水が入ってくる。咳き込んで水を吐き出す間もなく、また髪を掴んでは肩まで浴槽の水に漬けられた。  本当は水責めには、夜店の金魚すくいなどに使う浅めのプールが向いているらしい。バケツのように高さだけだと暴れられたら倒れてしまうし、倒れないという点では浴槽もいいが、縁に厚みがあって顔だけを沈めるのは実は難しいのだ……ということを、仲間同士で嬉々として語っているのを、庄助は水の中と外を行き来しながら聞いた。 「ば、っごほ……っ、はあっ、ぶ……」  水をなみなみと張った浴槽の前に跪いた庄助は、頭を水の中に押し込まれて、ガタガタと身体中を痙攣させていた。  意識を失いそうなギリギリのところで息継ぎさせられて、沈められる。それを何度も何度も繰り返されている。庄助はもう気が狂いそうになって、叫び出したかった。叫んだところで、それは水の中に消えるのだが。 「ほらもっと気張れよ、お兄さん。もうお腹いっぱいか?」  鼻全体にべったりとガーゼを貼った青メッシュの男が、水の中で藻掻く庄助の後ろ頭に話しかけた。後ろ手に結束バンドで括られて、命の主導権を握られている。指先が勝手にビクビクと跳ねる、本当に死んでしまう。死ぬなら死ぬで早く楽にしてくれ。そう思えるほどの苦痛だった。 「ぁ゙っ……はああっ、げっ、え……おぇっ」  投げ捨てるように解放されて、硬いバスルームの床に頭を打ちつけた。それでも、空気って最高だと身体が喜んでしまうくらいに水責めは辛い。慌てて吸い込んだ空気のせいで、今度こそ庄助は咳き込んだ。

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